桔梗原’s Eye
DXの目的が、テレワーク環境の整備やペーパーレス化などの“守り”から、「新しい製品・サービスの創出」「既存製品・サービスの強化」といった“攻め”に変わってきました。こうしたなか、DX先進企業の多くは内製化の動きを加速させています。しかし、DX戦略の立案からシステム開発・導入、運用・保守まで、すべてを自社だけでまかなうことはほぼ不可能です。DXを円滑に進めるためには、優れたパートナーと手を組む必要があります。攻めのDXでは、システム化の対象となる業務を整理してからシステム要件を定義するという、従来の定石は通用しません。今、求められているのは、ビジネスモデルの構想企画やサービスデザインから伴走してくれる、頼れる「相談相手」です。
コアビジネスのDXに向け、企業は「相談相手」を探している
DXに取り組む企業は着実に増え、一定の成果を感じ始めている。しかし、DXの考え方や適用範囲、またいかなる成果を感じているかは企業によって異なる。例えば、コロナ禍で在宅ワークを可能にするため、オフィスワークのデジタル化とペーパーレス化はかなり進んだ。これをDXの1つの成果と見ることもできるが、その先、つまりコアビジネスの変革や新製品、新サービスの創出につなげている企業はまだ少ない。
これまでのDXは、比較的手を付けやすい部分から進められてきた。例えば、経理や人事、購買など、標準化しやすい業務にデジタル基盤を導入し、効率化を進めるといったように。こうした間接部門の業務には、多くの企業に共通するプロセスが多いため、実績のある技術・ソリューションを導入し、業務プロセスを見直すだけで一定の効果を得られた。
それが一段落してきたのが、今日の状況だろう。コアビジネスに関わる分野、例えば新しい製品やサービスの創出、ビジネスプロセスそのものの変革などは、まだ手付かずの状態にある。この先のDXを、どう進めていくべきか。多くの企業が立ち止まり、悩んでいる。
JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査報告書」によれば、「経営戦略を実現するためにIT戦略は無くてはならない」と回答した企業は年々増えていたが、2020年をピークに横ばいに推移している。また、検索エンジンのグーグルが提供している「Google Trends」を見ても、「デジタルトランスフォーメーション」の検索トレンドはやはり2021年付近をピークに減少している。日本企業のDXは2020年頃にバズワード的に盛り上がりを見せたが、その後、落ち着いていることが分かる。
しかし、DXへの熱は決して冷めたわけではない。手を付けやすい部分のDXが一段落し、日本企業のDXはいよいよ次のフェーズへ進もうとしている。ビジネスモデルや製造プロセスの変革、新たな製品やサービスの創出など、コアビジネスのDXだ。DXの“本丸”をめざし、先進企業だけではなく、マジョリティー企業が動き出した。
では、DXを推進しようとしている企業は今、何を求めているのか。電通東日本と日経BPコンサルティングが行った「デジタル事業ブランド調査」(2022年12月)によれば、ITベンダー選定時に重視する点のトップ3は「DXへの取り組みで、適切なアドバイスをしてくれる」(46.2%)、「DXへの豊富な支援実績を持っている」(38.7%)、「DXに関連する豊富なソリューションを用意している」(35.0%)となった。
調査結果から分かるのは、多くの企業が自社のDXに伴走してくれる「相談相手」を求めているという事実だ。このことは、現在の日本企業の多くが置かれた状況とも符合する。
間接部門を中心とする標準業務のDXは、比較的方向性も見えやすく取り組みやすい。しかし、これから挑むべきコアビジネスのDXは少し異なる。経理や人事部門のように、グローバルなお手本やベストプラクティスがあるわけではない。各社が独自の経営戦略に基づいてアイデア出しをしてDX戦略を練り、それを実現するための推進体制を整備し、システムを構築するといったことが必要になる。これにはビジネスとデジタルの双方のノウハウが求められるため、自社だけで取り組むことは容易ではない。企業が「相談相手」を欲する理由はここにある。
本丸に向かうには、IT部門と業務部門が各々の役割を果たすことが重要
DXの本丸であるコアビジネスの変革に取り組むには、IT部門と業務部門が各々の役割をしっかりと果たす必要がある。
IT部門にとって重要な仕事の1つは、基幹業務システムに蓄積されているデータをビジネスのあらゆる目的に利用できる状態にすることだ。そのためには、オンプレミスで運用してきたレガシーな基幹業務システムをモダナイズし、最新テクノロジーで実現されているDXのシステムと柔軟かつ高速に連携できるようにする必要がある。基幹システムをモダナイズする有力なアプローチとしては、「クラウドリフト」や「クラウドシフト」が挙げられる。
一方、業務部門にとって重要になるのは、まずDXの目的を理解することだ。DXはビジネスの変革であり、デジタルによる既存業務の効率化ではない。DXの「X(トランスフォーメーション)」に目を向ける。
ビジネスの障害となってきた根本的な課題はどこか、競争優位に立てるチャンスはどこにあるか、をよく検討する必要がある。業務のモダナイズを考えながら、市場での競争力を得るためにデータをどう活用できるかを見極める。従来の常識を変えるような新たな製品やサービスを、デジタルの力で創出できないか検討していく。IT部門の知恵も借りながら進めるべきだが、IT部門はデジタル技術には精通していても、現場や業務のことにはあまり詳しくないことも多い。業務部門が当事者意識を持って進めなければならない。
このように、DXはIT部門と業務部門が双方の役割を果たすことによって進む。同時に、IT部門は自社のコアビジネスの内容や課題について、また業務部門はデジタルの活用について、互いに知見を深めていくことも重要だ。経営、業務部門、IT部門の3者が同じゴールに向かって力を合わせなければ、DXは進まない。
経営陣が危機感を持ち、「現場任せの」「効率化に留まる」DXから脱却を
DXは、これまでのようなITによる業務効率向上とは異なる。現状の業務プロセスをそのままデジタル化して効率向上を図るのではなく、データを活用して業務プロセス自体を変革したり、これまでにない製品やサービスを創出したりする取り組み、それこそが真のDXだ。従って、DXの出発点は経営戦略になる。企業として何をしたいのか。それを阻む課題は何か。経営トップが方向性を打ち出すことで、DXの戦略が明確になる。そのためには、経営とITの距離を縮めることも重要だ。
経営サイドは、ITのことはIT部門に任せておけばよいという姿勢を改めなければならない。また、「既存のビジネスとのしがらみの強さ」や「視野の狭さ」もDXの足かせとなる。経済産業省が「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」を2018年9月に公表してから5年。「2025年の崖」までもはや時間はない。DXは経営テーマの1つだ。DXで成果を上げることができるかどうかは、経営トップの姿勢にかかっている。デジタル技術の進展で、ビジネスの競合関係も大きく変化している。例えば、新聞社やテレビ局のようなメディアビジネスの競合は、今や同業他社ではなくグーグルやアマゾンドットコムなどのプラットフォーマーである。また、ヤフーや楽天などが電子マネーやオンラインバンキングに進出し、銀行や保険会社のビジネス領域に攻め込んでいる。デジタル技術を武器に市場に参入し、従来型のビジネスモデルや商習慣に風穴を開け、既存企業の存続を困難にさせている。
このような状況に立ち向かうためには、経営陣が危機感を持ち、「現場任せの」「効率化に留まる」DXを脱却しなければならない。自社はそもそも、社会に対して何の価値を提供しようとしているのか。ビジネスの本質はどこにあり、デジタルやデータの活用によってどう変革できるのか。最近注目されているパーパス経営や人的資本経営も同時に勘案する必要がある。
そこで重要になるのが、「相談相手」だ。例えば、海外で成功しているベストプラクティスが、日本企業の従業員や職場環境にとって必ずしも有効だとは限らない。顧客の成功よりも自社のITソリューションを売ることに注力する企業もある。
1つとして同じ企業がない以上、めざすべきDXは企業ごとに異なる。特に、これから始まるコアビジネスのDXでは、理論だけでなく実際の製造やサービスの現場にデジタルを導入した経験とノウハウが重要になる。こうした状況下で、DXに対する適切な支援を、変化の激しい今の時代に即応できるスピーディーさで、提供できることが相談相手の条件になるだろう。
例えば、日立は、DXという言葉が浸透する前の2011年頃からDXを推進してきた。自らがメーカーとして製造現場のDXを進めてきただけでなく、社会インフラやエネルギー、鉄道、建設、医療、製薬、物流を含む多くの業界のDXを支援してきた。これらの社内外に向けての取り組みが、経済産業省と東京証券取引所が選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄2021」において評価され、「DXグランプリ2021」に選定された。ITベンダーとしてグランプリは初めての選定である。その後も多くの成功と失敗の中から、様々なノウハウとベストプラクティスを積み上げている。
加えて、これから本格化する日本企業のDXを支援するため、あらゆる業界からDXのスペシャリストを集めている。DXの相談相手として、企画・構想段階からシステムの導入、運用、そして成果が出るまで寄り添って支援できる人材だ。まさに日立は、DXの一大相談所となりつつある。
次回は「特別版」として、日立が誇るスペシャリストの1人にインタビューを試みる。DXの最前線において、日立の取り組みや成功事例を聞く。