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人口減少や高齢化、人材育成にインフラ整備……解決すべき社会課題は山積している。「これまでと同じやり方では限界がある」と危機感を持つ自治体も多いという。こうした課題にデジタル技術や生成AIはどう役立つのか。有識者に話を聞いた。

複数自治体にまたがる公共分野のマーケットを作る

 社会課題の解決にデジタル活用が求められている。自治体が、基本構想にデジタル戦略を入れるようになったのはここ10年ほどだ。それまでも個別業務のIT化などは進められていたが、「自治体の業務全体の最適化、あるいは市民サービス目線でどのようにデジタル技術を使えばよいかを考えるようになったのは、ごく最近です」と関氏は言う。

画像: コード・フォー・ジャパン 関 治之氏

コード・フォー・ジャパン
関 治之氏

 加治氏は「自治体でデジタル戦略が進むようになったのは、行政側だけでなくさまざまなステークホルダーがひたむきに努力した結果でもあります」と話す。自治体におけるデジタル活用の動きの根底には“危機意識”があるという。今後は人口減少で労働力が不足する。これまでと同じやり方では、市民サービスは成り立たない。その危機意識から、デジタル活用が求められ、政府もデジタル庁を作り、デジタルの力で地方の個性を生かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図る「デジタル田園都市国家構想」を打ち出した。

 一方でSDGs(持続可能な開発目標)の世界的な動きなどもあり、「国からもそれなりの投資がなされ、持続可能なビジネスモデルの実現を地域できちんと回していけるようにする。そのようなシステムを作ることが求められています」と関氏。このような背景から、日本全体で、自治体はもちろん企業も積極的にDXに取り組む動きが加速している。

 加治氏が関わる鎌倉市では、さまざまな企業が自治体と一緒にサービスを作っている。その際に「誰のためにやるのか」という定義から共同で取り組んでいる。こうした自治体と企業の連携は、「確実に増えています」と関氏も指摘する。

 特定の業務領域だけをデジタル化するのではなく、地域の企業を育てて継続的にサービスが回せるようにするのは難易度が高く、全体最適で捉える必要がある。1つの自治体で実現しようとしても、スケール的になかなか成り立たない。そこで複数自治体にまたがる大きな公共分野のマーケットにする必要がある。

 「向こう10年くらいでマーケットが形成されれば、デジタル田園都市国家構想でやろうとしていることに、かなり近づくでしょう。そのためのスタートは切れています」とデジタル庁のシニアエキスパートも務める関氏は言う。デジタル庁のミッションの一つに、データ連携基盤がある。地域ごとにデータを相互運用可能にすることで、自治体がその基盤で動くサービスを安価に利用できるようにするのだという。それが「少しずつ使えるようになっています」と加治氏も言う。

課題の解決に生成AIなどのデジタル技術はどう役立つのか

 前述したように、国家レベルでも活用を支援しているデジタル技術を使って解決すべき課題は具体的にどれぐらいあるのだろうか。加治氏は、社会課題にもつながる、自治体が直面している課題を「ChatGPT」に訊ねてみた。すると回答は9つほどに集約された。

 最も深刻な課題は、人口減少と高齢化。続いて地方経済の衰退だ。人口が増えても地域産業の空洞化や雇用機会の減少などで、経済は衰退する。これは別の課題として挙げられた、都市と地方の格差にもつながる。インフラの老朽化と更新、環境保全と持続可能性への挑戦、「教育と人材育成でリスキリングをより増やすべき」という課題もあった。さらに地域文化と伝統の保護、継承、そして地域コミュニティーの活性化の必要性も挙げられた。さらにChatGPTに尋ねると、自然災害への備えも追加された。

クラウドの利点を最大限に生かすには、設計もさることながら、その「運用・管理」が重要になる。今、クラウドの運用変革が強く求められている。

 これらの回答は、ChatGPTとの10分ほどのやりとりで得られる。さまざまな資料に当たるなどの手間は必要ない。「生成AIを使い、このような効率が良い働き方を自治体などでもすべきです」と加治氏。課題解決型AIソリューションとDXを促進させるAIコンサルティングを提供するシナモンで会長兼CSDO(チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー)も務める加治氏によると「幾つかの自治体では生成AIを業務で使い始めている」という。

画像: 鎌倉市スマートシティ推進参与 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal 加治慶光氏

鎌倉市スマートシティ推進参与
日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal
加治慶光氏

 ある予測では、人口減少によって2040年ごろには現状の半分ほどの自治体職員で行政サービスを回さなければならなくなるという。そうなればサービスレベルが落ちるのは必至で、AIなどを使って可能なところは自動化せざるを得ない。

 さらにベテラン職員がどんどん辞めるという、高齢化の問題がある。これは企業も同様で、ベテラン職員のノウハウの継承が難しくなっていく。そこで「生成AIのような技術を使い、人が担ってきた業務を学習することで、ベテランがどう考え、どう意思決定していたかが分かり、新人もベテランに近い意思決定ができるようになる可能性があります」と関氏は言う。

 政策やサービスのためのアイデア出しなどでも、ChatGPTのような生成AIがすぐに活用できる。「例えば観光を促進するための、観光客のカスタマイズ体験、地域産業のイノベーション、地域コミュニティーとの連携、教育とスキル開発などにも生成AIのような新しい技術が役立ちます」と加治氏は言う。単に地域の伝統的な物語や音楽などをデジタル化して記録するだけでなく、生成AIがそれを理解して新たな形に再生成し、世界に向けて発信もできる。

 普段の自治体職員の業務でも生成AIの活用は可能だ。例えば写真や画像を組み合わせて観光資源をアピールするWebサイトの作成などは、生成AIで数十秒もあれば実現できる。多様な人たちが観光で訪れる際に、パーソナライズした体験を提供するのにも生成AIは役立つ。さらに「過去の議会答弁をデジタル化して保存する」「議事録を自動で作る」など生成AIの利用が既に始まっている。

社会課題の解決には住民が積極的に関与できる仕組みや体制が重要

 ChatGPTが挙げた課題のうち、それぞれの地域で重視すべきものは3つほどだろう。自治体ごとに課題の組み合わせは異なり、その解決を中心に添えて基本構想を立てることとなる。例えば鎌倉市なら、観光客が多過ぎる問題、津波への備え、高齢化が挙げられる。このようにデジタル田園都市国家構想でも、まずは地域課題を定義するところからアプローチする。

 日立市における官民連携の事例でも重視すべき課題を3つに絞っている。2023年12月に日立市と日立製作所は「デジタルを活用した次世代未来都市(スマートシティ)計画に向けた包括携協定」の締結を発表した。両者はデジタルを活用しながら「グリーン産業都市」「デジタル医療・介護」「公共交通のスマート化」を軸に、日立市の活性化と住民の安心、安全な暮らしを実現する共創プロジェクトを推進する。

画像: 次世代未来都市(スマートシティ)のビジョン(提供:日立製作所)

次世代未来都市(スマートシティ)のビジョン(提供:日立製作所)

 日立製作所でLumada Innovation Hub Senior Principalも務める加治氏は「この共創プロジェクトは日立市と『Society 5.0』の実現をめざすものです。日立製作所が一緒に取り組み、支援します」と話す。これは日立製作所創業の地での取り組みであり、両者には110年以上にわたるパートナーシップがある。その上で、公共交通である鉄道部分にまで踏み込めるのは、日立市とミッションクリティカルな社会インフラのシステムを支えてきた日立製作所ならではといえるだろう。

 官民連携の事例としては、先述のデータ連携基盤を導入している浜松市もある。この基盤上で企業同士がコラボレーションし、新たなサービス化を提供する。「住民の幸福度を測るWell-being(ウェルビーイング)指標を使いながら、「こういう政策、サービスを展開すると住民のWell-beingがどうなるか」を企業と会話しながら進めています。ワークショップなどを開催し、街のにぎわい作りとWell-beingの関係なども見ながら官民連携で進めています」と関氏は言う。

 デジタルやAIも、どう使うかを学ぶのではなく、何のために使うかを皆で考える。そのために企業、市民が一緒になって取り組み、市民の「何年後にこうなっていたい」との意見を反映させながら計画を作る。その上で関わる企業がしっかりと利益を上げられる要素も必要だ。「それがないと長続きしません」と関氏は継続性を持たせることの重要性を改めて指摘する。

 「一方で、SI(システムインテグレーター)などの企業は、構築した結果だけで対価をもらうのではなく、その先にある顧客、市民を見てサービスを提供し、対価を得るビジネスモデルに大きく変える必要があります」(関氏)

 日本全体の準公共のサービス、つまり公共交通や医療などを1つのマーケットと捉え、自治体ごとで個別にカスタマイズして取り組むのではなく、「デジタル社会において必要なサービスはこういうものだ」というのを企業がもっと打ち出す必要がある。

 「自治体だけではそのための知恵が足りません。国も細かく全ての自治体の事情は分かりません。企業の人たちが積極的に関わり、データ連携の在り方などを自治体の枠を超えて提案してほしい」と関氏は要望する。

 そうした動きが、政府の方針の中でも重視されているDXやGX(グリーントランスフォーメーション)の実現にもつながる。日本のDX、GXは世界的にも注目されており、それが評価されて海外からの投資も呼び込んでいる一面があるという。

 「自治体のDX、GXの動きには、国も積極的に投資することを表明しています。今まさに国や自治体、企業、市民が一体となり、継続的にDX、GXを推進するタイミングなのです」(加治氏)

 加治氏は続けて、「日立は“Digital for all.”というキーメッセージを掲げています。これまで電気や鉄道をはじめ社会インフラにも携わってきた日立が、今改めて『デジタル』という言葉を使う意味、そしてこの言葉に込める思いは『デジタルが人を分断するのではなく、誰もがデジタルの力の恩恵を受けられる社会をめざす』というところにあります」と語った。

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ITmedia 2024年2月9日掲載記事より転載
本記事はアイティメディア株式会社より許諾を得て掲載しています
企業の成長をドライブする“自己変革力” (itmedia.co.jp)

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