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 生成AIを巡る企業の動きが活発化している。2022年秋に米OpenAIが「ChatGPT」を公開してから、テクノロジー業界におけるビジネスの主戦場は生成AIに移り変わったと言っても過言ではない。変化が激しいIT領域において「日本は海外に数年分の後れを取っている」といわれることも多いが、生成AIに関しては海外に負けていない。

日立製作所の吉田順氏

 「生成AIは、日立グループにとって大きな成長エンジンであり、私たちが創業以来追求してきたさまざまな社会課題の解決にもインパクトを与えるテクノロジーだと捉えています」――こう話すのは、日立製作所の生成AIビジネスをリードする吉田順氏だ。


 日立製作所は、生成AIの活用を推進する専門組織「Generative AIセンター」を23年5月に設立した。同センター長を務める吉田氏は、その役割を次のように語る。

 「Generative AIセンターは、生成AIの知見を持つデータサイエンティストやAI研究者に加えて、社内のITや情報セキュリティ、法務、品質保証、知的財産など各業務のスペシャリストを集結させた組織です。32万人に上る日立グループ全社で生成AIの徹底活用を促進するとともに、そこで蓄積したノウハウをお客さまに提供する価値創出サイクルを回しています」

 生成AIの活用に力を入れる日立グループの強力なアクセラレータが、21年に日立グループの一員になった米GlobalLogicだ。「生成AIをグローバル規模で社会に実装できる仲間が日立グループに加わったことで、全社で取り組む社会イノベーションをさらに加速できると期待しています」と吉田氏は語る。

社会を変える生成AI
「World Wide Web登場に匹敵するインパクト」

 GlobalLogicは、シリコンバレーの中心地である米カリフォルニア州サンタクララに本拠地を構えるソフトウェア開発会社だ。米Qualcommや独BMWなど世界的企業の進化の一翼を担っているほか、名前は出せないがシリコンバレーの誰もが知るIT企業の多くと協力関係にある。GlobalLogicは先端技術をリードする企業で、AIについても自動運転や医療診断などの分野で10年以上前から研究してきた。

 GlobalLogicの先進性が分かるエピソードを、同社のジム・ウォルシュ氏(CTO:最高技術責任者)が紹介した。

GlobalLogicのジム・ウォルシュ氏(CTO)

 「ChatGPTが登場したときの興奮を当社のAI事業責任者に語ったら、『ジム、それはもう古いニュースだよ。私たちは数年前から使っているのだから』と言われたことを覚えています」


 生成AIは、米Googleの研究者らが「Transformer」という技術を17年に開発したことで現在の形になったその後、ChatGPTの登場を皮切りに、人が話す自然言語でコンピュータと対話できるようになったことで生成AIの可能性が世界中に知れ渡った。

 「生成AIは、GPUに代表されるハードウェアを活用することで急速に発展した技術です。急激な進化に私自身も驚いています。私たちは生成AIを使ったプログラミングや製造業におけるロボットへの応用に成功しました。AIにシェークスピアの詩を書かせることもできます。生成AIで仮想現実を実現しようとしている企業と協業中です」(ウォルシュ氏)

 GlobalLogicでの経験から、ウォルシュ氏は生成AIが知識労働者に大きな影響を及ぼすと見込んでいる。世界に約3万人いる同社のエンジニアやデザイナーはもちろん、弁護士や医師など知識労働に従事している人々の生活を変えるという。

 生成AIのインパクトをウォルシュ氏は「1990年代に誕生したWorld Wide Webに匹敵する基盤技術になる」と例える。同氏はWorld Wide Webの初期プロジェクトに参画して、最初期のWebサーバを構築した過去を持つ。

 「今日、社会生活からエンターテインメントまで人々のほぼ全ての行動がWebやインターネットの影響を受けています。しかし、当時の私は電子商取引などの用途は考えられても、SNSが生まれるなんて想像にも及びませんでした。生成AIも同様で、その影響を予測することは難しいですが、私たちの生活と働き方を完全に変えることに疑いの余地はありません」(ウォルシュ氏)

75のプロジェクトに見る、6つの生成AIの活用方法

 GlobalLogicが協業する顧客の多くが生成AIに関心を寄せている。24年3月時点で、すでに75のプロジェクトが進行中で、それらは6つの領域に分類できる。

 1つ目は画像や音楽、動画、仮想現実などのコンテンツ制作だ。望むものを説明すると生成AIが作ってくれる。

 2つ目はソフトウェア開発への適用だ。GlobalLogicも注目している領域で、ソースコードのドラフト生成やモダナイズ、省エネルギー化を含めた最適化といった分野で高い効果が見込める。ウォルシュ氏は、顧客のみならず約2万4000人のエンジニアが働くGlobalLogicへの貢献も期待できると考えている。

 3つ目はパーソナライズ化したコンテンツ作成だ。顧客に適した保険商品や携帯電話の料金プランを提案したり、専用のプランを設計したりできるようになる。従来は顧客のニーズや家計状況、家族構成などを考慮する必要があり、ソフトウェアの開発にも膨大な作業が必要だったが、その手間を大幅に削減可能だ。

 4つ目はチャットbotだ。現在のカスタマーサポート窓口は自動音声応答システムやローコードツールを使ったものなど大ざっぱな仕組みが多く、窓口の対応にイライラすることがあるとウォルシュ氏は笑う。番号やボタン操作による案内ではなく、人間らしい対話での案内を生成AIで実現する。

 5つ目は合成データの生成だ。製品テストや異常検知などの用途を想定している。生成AIにあるパターンを与え、そのパターンの次の要素が何かを予測させて実際の計測値と比較すれば異常を検出できる。検証用データの作成は難しく、システムが巨大で複雑になるほど全てのケースを想定したテストデータの用意は困難を極める。そこでデータを生成するというわけだ。

 6つ目はナレッジマネジメントでの活用だ。企業が蓄積した知識は、PCから人の頭の中までさまざまな場所に保管されている。必要なときに利用可能な形式でアクセスする方法として生成AIに期待が集まっている。ある大手コンサルティング企業は、新人コンサルタントの知識をベテランと同じレベルにしたいという要望をGlobalLogicに依頼したという。

 「ナレッジマネジメントについて、日立全社が持っている知識はGlobalLogicの何倍にも上ります。その知識を日立グループ全体で利用できるプラットフォームをグローバルで開発しており、その開発プロジェクトにGlobalLogicが参画しています。さまざまなハイパースケーラーの技術やサービス、日立が開発したコンポーネントを組み合わせるプラットフォームなので、これを『Platform of Platforms』と呼んでいます」(ウォルシュ氏)

独自の生成AIサービス「Dr. Koogle」でできること

Dr. Koogleのイメージ

 GlobalLogic社内でも生成AIを積極的に活用している。代表例が「Dr. Koogle」という社内愛称で呼ばれているナレッジ管理システムだ。OpenAIの大規模言語モデル(LLM)である「GPT」やオープンソースのLLMを組み合わせたもので、社内外の公開情報を収集しており、自然言語で質問すれば求める情報を答えてくれる。


 ソースコードの変換や最適化ができる社内システム「TechTransform」も開発した。エンジニアがほとんど使っていない古いプログラミング言語を読み解いて、モダンな言語に変換できる。システムやアプリケーションのアップデートを加速できるもので、すでに顧客にも提供し始めている。

「生成AI×GlobalLogicのノウハウ×日立のビジネス」で
生まれる可能性

 生成AIの利便性は、顧客の要望を満たすのにも役立つ。マーケットのニーズにマッチしたソリューションを探求する傾向が強まる中、顧客主導のソフトウェア開発市場が拡大すると見込まれている。生成AIの登場で、ソフトウェア開発の生産性が向上し、これまで高度なソフトウェアを導入しづらかったような企業も手が届きやすくなった。しかし、生成AIを使いこなすにはそのスキルを持つ人材が欠かせない。

 「高度なスキルを持つ人材の確保が困難になる中、GlobalLogicは東ヨーロッパやアジアなど各地域でトップクラスのエンジニアを抱えていて、顧客の案件に彼らをアサインできます。私たちは社内の人材育成と、その人材が活躍できるワクワクするようなプロジェクトの組み合わせに積極的に取り組んでいます」(ウォルシュ氏)

 GlobalLogicの力の源泉は、21カ国の拠点で働いている計3万人もの従業員だ。同社は21年に日立グループの一員になったことでさらなる高みに到達した。インフラ事業とソフトウェア業界という別々の領域で世界を舞台に活躍する両社が手を取り合うことで大きなメリットが生まれたのだ。

 「GlobalLogicが日立グループの一員になってから約3年がたち、売り上げは約2倍になりました。日立グループが強みとする鉄道や電力、エネルギーなどの分野の知識を深めながら新しいビジネスを展開する機会を得ました。逆に、当社が持つソフトウェア開発のスキルは電力システムなどに応用できます。日立グループの物理デバイスにソフトウェアを組み合わせることでこれまでにないレベルに引き上げられると考えています」(ウォルシュ氏)

 すでに日立グループとGlobalLogicによる生成AIを活用した取り組みが始まっている。その一つが、スイスのチューリッヒに本社を置き、グローバルで送配電事業を展開するHitachi Energyとカスタマーサポートの分野で進めている事例だ。

 「GlobalLogicが生成AIを活用した事例として、Hitachi Energyにおけるお客さま対応の品質を向上させる取り組みがあります。生成AIを活用することで、Hitachi Energyは何千もの書類をまとめ、それらの情報を関連付け、分かりやすい形でサポート担当者やお客さまに提供できます。これはHitachi Energyだけでなく、小売業などにも適用できる汎用的な技術です。このように、GlobalLogicはデジタルの専門知識をさまざまな領域で活用する能力を持っていて、企業に革新と成長をもたらすエキサイティングな機会を提供しています」(ウォルシュ氏)

 日立グループが抱える膨大なナレッジやデータとGlobalLogicのノウハウを掛け合わせることで、生成AIの力を最大限に生かしたビジネスを展開できる――そんな将来を見据えた連携が動き出しつつある。

画像はイメージです

「フィジカルな産業の生産性革命につながる」
日立グループが見る生成AIの展望

 「日立グループの中で、生成AIの活用が最も先行しているのはGlobalLogicです。イノベーションの最先端であるシリコンバレーで誕生してから、生成AIに限らずメタバースやWeb3など新しい技術をいち早く使いこなし、お客さまやビジネスの現場に取り込むスピード感は彼らの大きな強みです」(吉田氏)

 日立グループは、GlobalLogicと連携することで生成AIの活用を押し進める考えだ。「IT」の価値はオフィスワーカーの生産性を上げることだったが、「生成AI」は社会インフラの現場などフィジカルな産業の生産性革命につながるキーテクノロジーになると吉田氏は話す。例えば、先進国を中心に深刻化するエネルギー分野のメンテナンス作業員不足に対して、生成AIは大きなヒントや答えに近いところまで導き出せる可能性があるという。

 そうしたAIや生成AIの真価を引き出すには、プライバシーや倫理面のリスクに正しく向き合う必要がある。日立グループは社会インフラを担う存在として、専門組織による事業支援とガバナンスの継続的な改善に長年取り組んで見識を深めてきた。

 「ミッションクリティカルな領域のナレッジを培ってきた日立グループと、先進テクノロジーの実装力があるGlobalLogicがそれぞれ持つ強みを掛け合わせることで、生成AIの安心安全かつ効果的な活用を促し、企業や社会のさまざまな課題解決にグローバルで取り組んでいきます」(吉田氏)

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ITmedia 2024年4月1日掲載記事より転載
本記事はアイティメディア株式会社より許諾を得て掲載しています
企業の成長をドライブする“自己変革力” (itmedia.co.jp)

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