設備や機器の老朽化や、労働人口減少により、デジタル技術を活用した保守の高度化・効率化が急務となっている
― インフラ業界や、製造業などの分野における課題と、それに対する取り組みについて教えてください。
「近年よく言われているのが、施設や施設内のさまざまな機器・設備の老朽化が進んでおり、こまやかな保守やメンテナンスが必要になっていること。また、こういった状況では現場で働く保守員が必要ですが、少子化による労働人口の減少が起きており十分な保守員の確保が難しいこと。熟練した保守員の高度な保守技術の伝承が困難になっており、保守の品質の担保に課題があることなどが挙げられると思います。
インフラ業界は、私たちの生活や、企業活動に必要不可欠なサービスを提供しておりますので、簡単に機器を止めてしまうわけにはいきません。加えて、生成AIの普及による電力需要の高まりもあり、機器の安定稼働による、サービス停止時間の最小化が求められています。こうした状況の中で、デジタル技術を活用した保守の高度化・効率化が急務となっています。」

設備監視ソリューション "Hitachi Intelligent Infrastructure Monitoring"を担当されている新井隆正さん
「そこで、私たちHitachi Digital Servicesは、設備監視ソリューション "Hitachi Intelligent Infrastructure Monitoring" を北米を中心に展開しています。本サービスの特徴としてはいくつかありますが、設備や機器の監視に必要な機能は、一通り備えており、お客さまは施設や機器の課題に応じて、さまざまな機能をご利用いただくことが可能です。
少しだけ機能を紹介させていただくと、まず、カメラを使った機器メーターリアルタイム読み取り機能、そしてサーモカメラを使った温度監視機能、画像から傷や錆を特定する機能、施設内の不審者や不審物の検知機能、機器バッテリー使用状況監視機能、施設や機器の3Dモデル化機能などがあります。また、固定カメラやLiDARなどの各種センサー、ドローン、四足歩行ロボットなど、さまざまなエッジデバイスからデータを収集することが可能で、既存のカメラやセンサーに対応できるオープンなプラットフォームを採用しているのも特徴です。」
Hitachi Intelligent Infrastructure Monitoringの紹介映像 (英語)
www.youtube.com機器や設備の状況をリアルタイムかつリモートで把握することで、保守作業の高度化・効率化を実現し、安定稼働につなげる。
― これらの機能を活用することで、具体的にお客さまにどういったメリットがあるのでしょうか。
「米国の電力会社との取り組みについてご紹介します。お客さまの課題として、以下のようなものがありました。
① すべての変電所の検査を年4回行っており、頻度が高く、コストがかさんでいる。
② 定期メンテナンスのため、設備や機器の異常の発見が遅れてしまう。
③ 設備や機器からデータを収集できるのは四半期ごとであり、設備や機器の異常の発見が
遅れてしまう。また、設備投資や修理などの意思決定が迅速に行えない。
④ 老朽化した施設や設備は、監視するモニターが搭載されておらず、管理が非効率的。
そこで私たちは、ビデオカメラやサーモグラフィーを使用し、変電所をリアルタイムで監視するリモートモニタリングのシステムを導入しました。カメラやセンサーを使用し、機器のゲージやインジケーターをデジタル化することもでき、温度など測定している数値が閾値を超えた際にアラートを発信する仕組みとなっています。これらの取り組みにより、今までは年4回行っていた検査を年1回に減らすことができ、非常に効率的な保守・運用を実現しました。さらに、これまでは四半期ごとにしか取れなかった設備や機器のデータをリアルタイムで確認し、健康状態を把握することができるようになりました。これにより、何か異常が起こってシステムが停止してしまう前に対処できるようになり、かつ、設備や機器の交換や修理の目途も立てやすくなるので、安定稼働の実現につながっています。
さらに、保守員がリモートでカメラを使用して検査対象の設備や機器を詳細に確認できるリモート検査の機能も提供しました。これにより、保守を行う部隊の点検の時間や、施設までの移動の時間などのコストを大幅に削減し、保守の効率化に寄与することができました。
今後、これらのソリューションや機能を数多くの変電所へ展開する計画を立てています。」
「もう一つ、レンタルトラック会社と取り組んだ事例をご紹介します。レンタルトラック会社は、トラックを貸し出した後、傷や異常が無いかの検査を行う必要がありますが、これまでは人間の目と手で検査を行っていました。しかし、トラックの点検が終わって、再び貸し出せる状態になった時に初めて傷や異常が発見される、ということが頻発していました。このため、レンタルトラック会社としては、ヒューマンエラーを最小限に抑え、正確な検査を実現したいと考えていました。
このようなお困りごとでも、 "Hitachi Intelligent Infrastructure Monitoring"が解決をサポートできます。私たちはまず、トラックが返却されるエリアにカメラをいくつか設置しました。ナンバープレートを認識する技術を活用して、返却されるトラックが、所有しているどのトラックなのかを識別します。その後、トラックの車体の写真を撮影し、クラウド上にアップロードします。すると、高度な機械学習モデルがクラウド上でこれらの写真を処理。車体の傷や異常を検出・分類し、最終的には分析の結果をレポートとして提出してくれるという仕組みです。
この取り組みにより、傷や異常の検出精度の向上と、検査のプロセスを大幅に短縮することに成功しました。」
グローバルにおいて、リモートでの設備や機器の管理・保守のニーズが高まっている。
― CES2025にも参加されたと伺いました。現地のお客さまの反応や、最後に今後の展望についても教えてください。
「私たちはCES2025においても本ソリューションを紹介しましたが、非常に多くのお客さま、パートナーに来場いただき、グローバルにおけるリモートによる設備や機器の管理や保守業務への関心の高さを感じました。現段階では、北米のお客さまへの導入が主ですが、機器や設備の管理・保守を行う日系企業(鉄道、ガス、電力など)のお客さまにも興味を持っていただき、国内にも需要があるのではないかと感じました。今後は、北米での実績を生かして、本ソリューションを日本含めたグローバルでさらに広げていきたいと考えています。既存のお客さまへの提供範囲を拡大していくことはもちろん、電力会社だけでなく、鉄道や鉄鋼などの変電所を保有するお客さまや、AIにより需要の高まるデータセンター事業者など、さまざまな業種の設備の安定稼働や、サービス品質向上を支援していきたいです。少しでも気になった方は是非、Hitachi Digital Servicesまでお声掛けください。」

CES2025の日立ブースの様子