2026年、ラスベガスで開催された CES2026 の日立ブースでは、このバイオ医薬品製造向けソリューションの展示が行われた。今回はCESの会場にて、ソリューションの開発・企画に携わる日立の沖田 圭介と山下 俊輔に、その全容について語ってもらった。
日立の技術や経験を活かし、バイオ医薬品のライフサイクル全体を支えたい
まずは、「バイオ医薬品製造向けソリューション」が生まれた背景を教えてください。
沖田:バイオ医薬品とは、細胞や微生物を培養し、そこから得られるタンパク質などを使って治療に使う“次世代型の薬”です。このバイオ医薬品の市場は、この数年で一気に伸びました。コロナ禍でのワクチン製造支援、抗体医薬品の需要拡大、がん治療の高度化──こうした変化が一気に重なったからです。特にがん治療の領域では ADC(抗体薬物複合体)*1やバイスペシフィック抗体、さらに細胞治療のようなATMP(先端治療医薬品)*2が注目されていますが、これらは大量の細胞培養が必要になり、高度な培養技術とデータ解析が不可欠です。日立は、昔から積み上げてきた培養に関するノウハウや、AIなどのデジタルのケイパビリティを活かすことができるので、ここはまさに日立の強みが発揮できる領域です。
*1 ADC= Antibody Drug Conjugate (抗体薬物複合体)
*2 ATMP= Advanced Therapy Medical Products (先端治療医薬品)
一方で、バイオ医薬品の製造には、開発の長期化、商用スケールへの最適化が困難、製造コストが高いなどの課題があり、これらをまとめて解決できる存在が求められてます。日立には、培養槽の設計・運転ノウハウ(1948年からの歴史)、AIによるオートメーション、高度なシミュレーション技術、再生医療・細胞治療製造用の自動培養装置といった幅広い技術・経験があります。「これらを組み合わせれば、バイオ医薬品のライフサイクル全体を支えられるのではないか」──という仮説に基づき、バイオ医薬品製造向けソリューションの提供を開始しています。

沖田 圭介 (株式会社日立プラントサービス エンジニアリング事業部 医薬・バイオ技術本部)
具体的なソリューションの内容を教えてください。
山下:日立は、製薬企業がバイオ医薬を効率的に作るために、データを活用してサポートするソリューション群を持っています。バイオ医薬品製造に必要な工程である、プロセス開発から製造・品質管理、再生医療の製造装置、トレーサビリティまで、広くカバーしています。具体的には、以下のようなソリューションがあります。
昨今の潮流である高密度培養に対応できる「培養プロセス開発支援ソリューション」
パイロットデータを基にシミュレーションとAIで、商用スケールでの最適条件を導出。これにより:製造立ち上げ期間:3年→2年へ短縮、生産性の1.5〜3倍向上、品質の安定化、パイロット設備の追加投資回避を実現しています。日立の強みは、AI の解析アプローチだけでなく、長年の培養槽設計の経験から構築した生物学モデルを併用できること。“予測”だけではなく“より良い作り方”まで提案できる点が大きいと思っています。
説明可能なAI「B3 Analytics」
バイオマーカー抽出や臨床判断支援など、医療データ解析を支えるAIです。「なぜその結果になるのか」を説明できるため、医療分野での信頼性を高めます。
HVCT RM(再生医療向けトレーサビリティ)*3
細胞治療・ATMPのバリューチェーン全体のトレーサビリティとコンプライアンスを確保します。
*3 HVCT=Hitachi Value Chain Traceability
HITPHAMS(MES*4/LIMS*5統合管理)
製造・品質管理データを統合し、整合性を確保するソリューションです。現場操作性が高く評価されています。
*4 MES= Manufacturing ExecutionSystem:製造実行システム
*5LIMS=Laboratory Information Management System:検査情報管理システム
細胞自動培養装置iACE2 (ACC-200)
細胞培養プロセスの自動化による高品質な細胞の安定供給を実現します。また、細胞の大量培養や、iPS細胞などの拡大培養と分化培養の自動化、シングルユースの閉鎖系モジュールによる無菌環境の確保などを実現します。
メンテナンス&オートメーション
日立ハイテク、JR Automation、Flexware、GlobalLogic など、日立グループの総合力を生かし、グローバルスケールで培養監視〜制御〜スケールアップまでを支援します。

山下 俊輔(日立製作所 コネクティブインダストリーズ インダストリアルAIビジネスユニット 水・環境事業統括本部)
日立の強み-AIなどのデジタル技術に加え、長年のプラント事業で積み重ねた生物学的モデルを持っていること
日立ならではの強みについて教えてください
沖田:日立の強みは、AIなどのデジタル技術に加え、長年のプラント事業で積み重ねてきた生物学的モデルを持っている事です。日立は1948年から医薬・バイオプラント事業に取り組んでいて、これまでに 250件以上のプロジェクトを完遂し、500基を超える培養槽を設計・製造してきました。大型培養槽の製造機能は現在日立グループ内にはありませんが、設計やモデル構築のノウハウは今も強みとして残しています。私たちは、培養シミュレーションで予測を行うだけでなく、これまでの経験に基づいて「より良い製造方法」まで提案できる点が特徴です。
山下:日立は、半導体、低分子医薬、バイオ医薬、ゲノム医療、再生医療など、多様なプラント・設備に関わってきた実績があります。そのため、培養シミュレーションの高度化や、大容量スケールへのスケールアップといった領域にも対応できます。さらに、日立は事業領域が広く、日立ハイテク、JR Automation、Flexware、GlobalLogicといったグループ会社とも連携しながら、培養状態監視、最適制御、ユニット化、シミュレーション高度化などを一体で提供できる体制も特徴です。こうしたグループの連携によって、お客さまに最適なソリューションを提案できる点は、まさに日立ならではの強みだと思います。
すでに顧客導入や成果は出ているのでしょうか。
沖田:はい。今後大きな成長が見込まれる次世代抗体では、生産効率を高めるための製造プロセス強化が大きな課題になっています。特に、高密度での培養が必要となる難易度の高いプロセスの確立 と、少しでも早く革新的な治療を患者に届けるため、商用設備の立ち上げをいかに早く行うかが重要視されています。私たちは、日立の培養シミュレーション技術を活用したコンサルティングを提供し、その結果、以下のような成果を達成しました。
(1) 市場への導入期間を3年から2年へ短縮し、製品販売期間を最大化
(2) 製造コストを約20%削減
(3) 不純物低減による品質向上
(4) パイロット設備への投資回避
これらは、培養シミュレーションに加えて、日立が長年の経験から培ってきたモデリング能力を生かした培養条件の最適化技術によって、商用スケールでの最適化を迅速に行えたことが大きく寄与しています。
CES では来場者からどのような反応がありましたか。
沖田:日立ブースは非常に多くの来場者でにぎわっており、多くのお客さまに私たちのソリューションを知って頂けたと思います。その中でお客さまから言われたのは「日立がバイオ医薬の分野まで手掛けているとは知らなかった」という驚きの声でした。北米を含むグローバル市場に向け、私たちのバイオ医薬品製造向けソリューションを強力にアピールできたと感じています。
山下:展示全体を通して、モビリティーやエネルギー、そしてバイオ医薬の分野まで、日立の非常に幅広い事業領域をアピールできたのではないでしょうか。個人的には、さまざまな国籍の日立社員と一緒にCESに参加したことで、日立がグローバルカンパニーであることを実感でき、とても大きな経験となりました。

CES2026にて、ソリューションを説明する様子
将来的には、ペイシェントジャーニー全体でのウェルビーイング向上をめざす
最後に、バイオ医薬品製造向けソリューションの今後の展望を教えてください。
沖田:今後も、日立の強みである培養における知見・ノウハウと、AIを掛け合わせた分析力と、計測センサにおける強み、オートメーション・制御の技術を掛け合わせ、ソリューションを提供していきたいと考えています。また、リアルタイムで製造装置のセンサーデータを取得。AI で解析し、そのままプロセスにフィードバックする“デジタルツイン型の製造”は、業界全体の理想像だと感じています。これを実現するために、日立としても計測・AI・制御を組み合わせた統合的なソリューションをさらに磨いていきたいです。
山下:北米市場は世界の製薬市場の約半分を占めていると言われています。日立としても、北米のお客さまとの POC を進め、グローバルでのビジネス拡大を加速させたいと思っています。また、将来的には、医療機関における診断における早期発見の支援や、製薬会社と連携した薬効改善や早期開発による治療の支援、予後の保険会社などと連携したライフスタイルサポートまで、トータルでソリューションを提供し、ペイシェントジャーニー全体でのウェルビーイング向上に貢献していきたいです。
関連リンク
Hitachi Digital Solution for Pharma:製品・ソリューション:製造業・流通業向けソリューション:日立




