<インタビュー対象者>
酒井俊樹(さかいとしき)さん
株式会社日立製作所 デジタル事業開発統括本部 Data Studio所属
入社二年目(1月取材時点)、若手データサイエンティスト。生成AIによる業務DXに従事。
大学時代は統計学だけでなく、文系理系問わず幅広い学問をカバーする文理融合型の学問を学ぶ。
初めまして。私は日立製作所の冬季インターンシップに参加しており*1、広報宣伝について現場で学んでいます。大学院ではコミュニケーションデザインを専攻しており、「人と人を仲良くする」コミュニケーションの課題解決について学んでいます。
この度、日立のデータサイエンティストの方に取材させていただきました。データサイエンティストの印象は「難しそう...」「理系の仕事」「数字と向き合う」でした。私自身、「データにもサイエンスにも疎い学生としては縁のないお仕事だ...」と思っていたところ、取材するうちに「あれ、この世界案外好きかも...?」とだんだん惹かれていくような魅力がありました。今回は、取材でお伺いしたデータサイエンスの意外な魅力についてレポートしていきます!
*1 2026/2月時点
文系出身大学生・酒井さんがデータサイエンスの面白さに出会った瞬間

データサイエンティストとはどのようなお仕事ですか?
酒井:一言でいうと、「データを介して技術と現場のマッチングをする仕事」です。世の中はデータであふれていて、現場も日常的にたくさんのデータを抱えています。そのデータを活用することで色々な解決策につながるのですが、現場はそれを一足飛びには使えません。
だからこそ、データに関する専門知識を持つデータサイエンティストが技術と現場をつなぎ、現場の課題解決に貢献しています。

データサイエンティストという仕事は、「なんだか難しそう...」という印象をもっているのですが
------酒井さんがデータサイエンスを面白いと感じた瞬間について教えてください。
酒井:データサイエンスを初めて面白いと感じたのは、大学の授業です。私が履修していた授業で、統計学の教授が<ある折れ線グラフ>を見せて仰いました。「自動車事故数がどんどん減っています。これは自動ブレーキシステムの変化によるものと言えます」
生徒一同「そうなんだ~」となった後、教授は「嘘です」と言い放ったんです。
びっくりしました。教授は、「実際には、少子化などの影響で車を持つ世帯が少なくなったため、事故の発生件数自体が減少しています。私達は数字を先入観で見てしまいがちですが、正しいデータの活用法を知ることが大事と言えます。」と続けました。それが私がデータに面白さを感じた瞬間でした。データを正しく知ることで世の中を知り、多くの人の課題を解決することができるようになる、そんな気づきがあり、ワクワクしました。


「データの読み方を知る」ことで、世の中に対する理解度が上がるのですね。
------その後、大学では文理融合型の学部に所属しながら、統計学を専攻していたとのことですが、どうでしたか?
酒井:はい。実は、もともと国語が好きで、人の感情に関する心理学や文学にも興味があったので、文系として大学に入学しました。 また、データにも面白さを感じていたので、次第に「目で見えない曖昧なものをデータという見える形にする」という志向に発展し、言葉や文化をデータでひも解く、文理融合型の学問に進みました。
例えば、当時の教授に人間の行動分析という心理学のテーマを統計的に研究している方がいらっしゃいました。私も、そういった世の中の曖昧な事象を定量的に捉える研究に興味を感じ、他人の感情などの定性的な事象をデータの側面で捉え、言語化して定量化していくプロセスを学んでいました。

捉えられない人の感情をデータで可視化するということは、確かに面白そうですね。
-----こういった文系的な学びを経て日立製作所に入社した理由はなんだったのですか?
酒井:データサイエンティストとして入社できることが前提で、その中でも日立製作所は金融や製造、公共事業などさまざまな業界での案件に携わることができるという点が魅力的でした。私自身、学業以外では映画を製作したり、国際交流サークルに入ったり、教職関連の講義の受講をしたり...と色々なことに興味がある人間だったこともあり、分野をまたがって総合的にデータを扱える人財になりたいと思っていました。
「意味」を残すために。現場の課題を丁寧にひも解くコミュニケーション

大学時代、幅広い活動に取り組んでいたからこそ、日立の事業領域に魅力を感じたと...
------その後入社し、印象的だったお仕事は何ですか?
酒井:印象的だったのは、新人研修プログラム「モノづくり実習」です。新卒入社一年目の社員を対象に、同社の製造現場の課題解決に取り組む研修でした。現場に配属される3か月間の実習期間で、データ収集から分析、モデル構築までを一貫して担います。私自身はエレベーターを作る工場に配属されました。入社一年目でしっかり現場に入り込んだ経験が、今の仕事での姿勢につながっています。
特に一番大きな学びだったのは、現場でのコミュニケーションです。課題解決をするために、業務フロー上の困りごとについてヒアリングする必要があるのですが、まずそこで職人の方々が何を言っているのかが分かりませんでした。現場特有の専門用語や暗黙知となっているノウハウは、一年目の社員はまったく理解できなくて。業務を深く理解することがその後の技術的なアプローチを左右するため、わからない言葉の意味を一つ一つ尋ねていく必要がありました。
そういった現場でのコミュニケーションが大変だとしても、業務が効率化することで職人さんたちが他の仕事に手を回せるようになることで喜んでいる顔をみることがモチベーションにつながっています。「自分が意味を残せたんだな」という達成感を感じるようになりました。

モノづくり実習では、現場とのコミュニケーションがデータサイエンティストという仕事の難しさでもあり、やりがいでもあったということですね。
------その後のお仕事でも現場とのコミュニケーションは大切だったのですか?
酒井:はい。どの仕事でもコミュニケーションは大切ですね。現場における課題解決はいつも、相手を知ることから始まります。どんな困りごとがあるのかを丁寧にヒアリングすることが、最終的なユーザー満足度につながります。例えば、生成AI技術を現場に導入したとしても、最終的にそれを使ってもらえるかどうかは分かりません。現場の人自身が「使いたいと感じるか」にかかっています。なんか知らない人がきて、便利そうなもの置いていったけど、よく分からないから使わないし、これがなくても今の仕事を続けられるし、と思われてしまうと結局あまり意味がない仕事になってしまうので。
だからこそ、コミュニケーションを重視しています。現場の職人さんにすんなり受け入れてもらえるような空気づくりや、現場のフローを理解した上でのユーザーにやさしい設計をめざしています。

身振りを交えて説明してくださった酒井さん
見えない課題を言語化する「翻訳者」。データサイエンティストの在り方とは?

そうなんですね...私も今、学生としてデザインを学ぶ上でユーザー体験を大切にすることも多いので共通点を感じています。
--------実際に、ユーザーにやさしい設計に取り組んだお仕事もあったんですか?
酒井:はい。金融系クライアントのオペレーター業務において生成AIの精度を向上させる案件に取り組んだ時も、ユーザーであるオペレーターの思考を理解することが重要でした。技術的に高度なAIを実装することは可能ですが、それだけでは現場は使えません。生成AIを使い慣れていないユーザーが、どうすれば使いたくなるかを考える必要がありました。
現場に生成AIを活用した情報検索システムを導入する際、よくある課題として想定されたのが、ユーザーによる「キーワードのみの入力」でした。普段のインターネット検索の感覚で、AIに前提条件を伝えず単語だけを打ち込んでしまうと、AIは意図を十分に汲み取れず、期待するような回答を返すことができません。今回のクライアントの現場でも同様の事態が予想されたため、生成AIに不慣れなオペレーターの使用フローに寄り添った、やさしい設計が必要でした。
そこで、ユーザーが短いキーワードだけを入力した場合には、AI側から不足している情報を自ら聞き返すような仕組みを検討しました。例えば、ある特定の制度について単語で調べられた際、AIが「どのような条件でお探しですか?」と質問を返します。このようにシステム側から対話をリードすることで、ユーザーが自然と詳細な条件を絞り込み、本当に求めている情報へたどり着けます。
僕にとってデータサイエンティストの仕事は、人の気持ちや行動の理由を考えることがとても重要です。だからこそ、文学や心理学など文系を学ぶ方でも楽しみながら働けるのではないかと思います。「人に何かを伝えること」を仕事にしたいと思ったとき、データサイエンティストも一つの選択肢として考えてほしいですね。感情だけでは伝わりきらないビジネスの分野においては、データを駆使することでより納得感のある課題解決ができると思います。

データサイエンティストは人の考え方や行動に寄り添う仕事だったのですね。インタビューが始まる前の印象とは大きく変わりました。
------酒井さん自身はデータサイエンティストという仕事をどのように捉えておられるのですか?
酒井:一言でいうと「翻訳者」みたいだな、と思っています。現場のデータは、職人の動きや、考えていること、その人自身も自覚していないようなことを数字で表してくれる、いわば言語に近いですね。 データサイエンティストは、データのスペシャリストとして現場の見えない課題を翻訳するなど、解決するための技術をわかりやすく説明するような仕事です。これからも、現場に寄り添う課題解決を意識していきたいと思っています。
後記
インタビュー中、酒井さんは「君もデータサイエンティストに向いているかもしれないよ」と私に言ってくれました。そう発言した理由が取材後には少しわかった気がします。データサイエンティストは、コミュニケーションが何より大切で、そして数字だけでなくリアルな人にも向き合って課題解決をしていく仕事であると知ることができたからです。緊張しているインターン生の私にも、終始笑顔で取材に対応してくれた酒井さん。これからも人に向き合うデータサイエンティストとして活躍されることを応援しています。
イラストはAIで生成しました。



