現場で働くフロントラインワーカーが、より効率的に、安全に業務を行うために
日立製作所の次世代AIエージェント”Naivy”について教えて頂けますでしょうか。
平川:今、グローバルで課題となっているのが、労働人口の減少による、現場で働くフロントラインワーカーの人手不足です。現場では、夜間や危険な環境での作業が求められることもあり、心理的負担も大きいのも一因かもしれません。また、ベテランの熟練された技能の伝承・継承は時間がかかり、なかなか次世代に定着していかないため、現場作業の品質をどう担保するか、といった課題もあります。このような状況が続くと、人の力だけでは現場を回していくことが難しくなり、これまで通りの社会や、私たちの生活を維持できなくなるかもしれません。私たちは、こうした背景の中、現場で働くフロントラインワーカーがより効率的に、安全に業務を行えるように、AIやメタバースといったデジタル技術を駆使して支援することができないか?と考えたんです。
Naivy すべての働く人をAIでNavigateする
Adrien:私たちは、製造・点検・保守など、現場の作業判断を支援するAIエージェント”Naivy”を開発しました。Naivyは、Navigation+AIの造語で「すべての働く人をAIでNavigateする」という意味が込められています。技術的には以下のような特徴があります。
<Naivyの技術的特徴>
・AIエージェント×メタバースによる現場拡張・作業支援
・RKY(リスク危険予知)支援システムで現場ごとのリスクを可視化・対策提案
・3Dモデル上で作業手順や危険箇所を明示する「視覚的支援」
・音響解析AIや画像解析などのマルチモーダル技術
・熟練者のノウハウをヒアリングやドキュメントから自動抽出し、知識として集約できる
・マルチエージェントAIによる判断過程の可視化と説明性
Adrien:日立はOT(Operational Technology)の領域でビジネスを行っていますので、体系化した熟練者のOTナレッジ(原因と対策の関係性や勘・コツ・経験)を持っています。Naivyは、それらの情報もすべて統合しているため、現場の情報を本当の意味で理解し、フロントラインワーカーに向けて、状況に応じた対処方法を仮想空間上で手順や機器の位置を可視化しながら直感的に伝えることができます。これは、非熟練者の作業効率化を実現し、心理的安全性を確保することにもつながります。さらに、現場のフロントラインワーカーはNaivyを介して、遠隔地にいる熟練者とメタバース空間上で情報連携することもでき、まるで同じ場所で作業しているかのようにコミュニケーションや意思決定を可能にすることもできます。このようにNaivyは、現場のナレッジと働く人をつなぎ、コミュニケーションを円滑にする「パートナー」なのです。

Adrien Gregorj(日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ ビジョンインテリジェンス研究部)
OT領域の知識や経験がある日立だからこそ、
現場の暗黙知を抜き出し、AIに学ばせていくことができる
Adrien:開発の際、日立のOT領域の熟練者にインタビューを行い、作業を行う上でのノウハウ、経験、勘といった暗黙知を抜き出すという作業を実施しました。AIエージェントは多くの企業が取り組んでいると思いますが、本当にOT領域の知識、経験がある日立だからこそ、暗黙知を抜き出し、AIに学ばせていくことができます。これは日立の大きな強みです。また、日立はロボティクスの研究も行っているので、AIとロボティクスを掛け合わせることもできます。今後発展していくフィジカルAIの領域においても、Naivyは強みを発揮することができると考えています。あと、ちょっとしたトリビアですが、Naivyのロゴは「人 x ロボット x AI」を表しているんですよ。

Naivyのロゴ
平川:開発の際には、アプリケーションの使い勝手、デザインにもこだわりました。「せっかく開発するのだから、ちゃんと使ってもらえる技術を開発したい。」という想いがあり、日立のデザインの部隊と協力しながらUIを改良していきました。使い手の立場に立って開発することを大事にしているのも、日立らしさの1つと思っています。

NaivyのUIの変遷
Naivyが遠隔地の熟練者、現場の作業者、ロボットのコミュニケーションを円滑に
Naivyを活用すると、現場のフロントラインワーカーの働き方はどう変わるのでしょうか。
平川:複数の工場を、一人の熟練作業者が管理する…そんな未来を想像してみてください。たとえば、ある工場設備のセンサーが異常を検知した場合、現場を巡回しているロボットが自律的に異常箇所へ向かい、その場の状況を撮影して送ってくれます。
送られてきた画像を熟練作業者が確認すると、二人がかりで対応すべき作業ですが、工場内は今、作業者が一人しかいない――こうしたケースは十分に起こり得ます。その際には、近くを巡回しているロボットを遠隔操作で呼び出し、作業の補助に入らせることができます。
また、作業の様子はロボット側のセンサーだけでなく、作業員が着用する作業着センサーのデータも含めて記録されます。これらのデータはメタバース上にナレッジとして蓄積され、熟練者がロボットをどのように操作したかというログも集約されていくので、作業ノウハウが自然とデータ化されていきます。こうした日々の蓄積データは、自律行動ロボットの学習にも活用できます。実際の作業データそのものが、ロボットの“先生”になる、というイメージです。遠隔地の熟練者、現場の作業者、そしてロボット。こうした三者のコミュニケーションをNaivyが仲立ちすることで、安全に、効率的に作業を完了することができる…そんな未来を実現したいと考えているんです。

平川 康則(日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ ビジョンインテリジェンス研究部)
実証効果や、現場の声などがあれば教えてください。
Adrien:日立社内でNaivyを活用した実証実験を実施し、結果、非熟練者の遂行能力が約3割向上し、トラブル対応時間を短縮することができました。経験の浅い現場作業員の心理的負担を軽減し、物理的な制約を超えて、働く人のウェルビーイングや、現場力の最大化に寄与できることが分かりました。今後は、現場の人手不足が顕著な、プラントや、変電所といった領域での活用をめざしています。
NaivyはCES2026で展示されていましたが、お客さまのリアクションや、手ごたえ、感想などあれば教えてください。
平川:とにかく日立ブースは多くのお客さまで盛り上がっていて、ひっきりなしにお声がけをいただき、ご説明している・・・そんな状況でした。CESではさまざまな業種の方とお話できましたが、どの業種の方も、「現場の人手不足」は課題として痛感していることを実感できました。
Adrien:CESはラスベガスで開催されていますが、米国だけでなく、日本やその他の国の方も多く、本当にグローバルなイベントなのだと感じました。Naivyの説明を聞くために日立ブースに訪れた方もおり、Naivyや、日立のフィジカルAIへの取り組みはグローバルでも注目されているのだと感じました。
「現場の作業者の支援がしたい」 それが一番の想い
平川:Naivyを活用して、ロボットに限らず、あらゆるモノとつながれるようにしたいと考えています。例えば、工場であれば、すべての設備やロボットにNaivyをつないで稼働状態を確認し、データをすべて集めることができれば、Naivyに問いかけただけで、工場の稼働状況をすべて教えてくれ、アラートが上がっている部分はロボットが自動的に対応してくれるようになるでしょう。そうなると、人間はより本質的な仕事に集中できるようになります。そういった未来を実現していきたいです。
Adrien:Naivyが空間も認識できるようにしたいです。例えば作業者がNaivyに「Aの設備の状態を確認したいんだけど、工場内のどこにAという設備が置いてある?」と尋ねた時に、Naivyがまるで人間のように「Bという部屋に入って、正面右手の、一番奥から2つ目にある設備がAです。」と答えられるようにしたいです。また、設備に付いているバルブの種類や、ひねった時の作用についても、Naivyが瞬時に見て判断して教えてくれるなど、さらなる業務効率化を実現したいです。Naivyは私たちの「パートナー」だという言葉がしっくりきます。現場の作業者を代替する技術ではなく、作業者を支援するためのソリューションを作りたい。そして熟練者のノウハウや経験を残していきたい。それが私たちの想いであり、原動力です。
関連リンク
日立の次世代AIエージェント「Naivy」を活用し、現場の安全性を高めるリスク危険予知支援システムを新開発、現場安全性・効率性向上の効果を実証:2025年10月7日



