Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

 GX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みがグローバルで加速している。2021年に英国で開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、154カ国と1地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明。日本政府も2021年、温室効果ガス排出量を2030年に2013年比で46%削減することを公約し、2023年からGXを重点投資分野に位置付けている。

 GXは産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を実現する取り組みを指す。重要なのは、カーボンニュートラルを軸に各種規制が強化されるなど、市場参加の前提条件、ビジネス遂行の在り方そのものが変わりつつあることだ。今、国と企業の存続、発展にとってGX推進は“待ったなし”の状況となっている。

 だが、官民一体の推進が急務であるにもかかわらず、その動きは鈍い。企業は今どのようなリスクにさらされ、何を求められているのか。日立製作所(以下、日立)でGX事業をリードする竹島昌弘氏に聞いた。

国際的な規制強化で「GXを推進しない」ことが大きなリスクに

画像: 竹島昌弘氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 GX事業創生本部 本部長)

竹島昌弘氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 GX事業創生本部 本部長)

 「GX推進は『総論は賛成であり、取り組むべき』と考えている企業が大半です。しかし、限られた予算は生産性向上や人手不足など目先の課題解決に充てられ、GXへの投資には結び付いていません」


 竹島氏は日本企業の現状をこう俯瞰(ふかん)する。しかし世界でGXのパラダイムシフトが起こっている今、悠長に構えているわけにはいかない。「特にインパクトが大きいのは、国際的な規制の強化」(竹島氏)だという。EU(欧州連合)で新設されたCBAM※1やESPR※2だ。


※1:Carbon Border Adjustment Mechanism(EU炭素国境調整メカニズム)の略称。/※2:Eco-design for Sustainable Products Regulation(EUエコデザイン規則)の略称。


 「今後は製品単位でCO2排出量を把握しなければEUに輸出できなくなるため、グローバルな生産体制を持っている企業は事業が立ち行かなくなる可能性があります。これは製品を輸出している企業に限った話ではありません。製品の構成部品メーカー、すなわち全てのサプライチェーン構成企業に関わる課題です」

 既に国内でも「東証プライム上場企業へのCO2排出量開示実質義務化」といった政策が採られているように、世界市場は今「環境負荷の高い状態で製品を作り続けること」を明確に否定している。GXに取り組まないことは、市場からの撤退を余儀なくされるほどのリスクになり得るというわけだ。

GX推進が「成長機会に」 DXにもつながるメリットとは

 一方で、GX推進はエネルギーコスト低減だけでなく成長機会になるといわれている。取り組みが収益や事業拡大に直接つながらないため消極的になりがちな企業は多いが、竹島氏は「規制対応以上に、メリットに注目してほしい」と強調する。

 というのも、CBAMやESPRに対応して「CO2排出量を製造過程で精緻に把握すること」は「生産に関わる情報の粒度が高まること」とイコールであり、製品の品質改善、生産全体の効率化、コスト削減につながるためだ。

 「重要なのは、CO2排出量の『データを取る』ことではなく『データを分析して課題を発見、改善する』ことです。生産計画や設計情報にCO2排出量をフィードバックすれば、『より少ない排出量で製造することで、原価を抑えるにはどうすればいいか』といった検討ができます。その結果、太陽光や蓄電池を活用したピークシフトを行う、短時間で集中的に動かす工程に変更するといった具体策が生まれ、消費電力やコストの削減、効率化が実現します」

 DXの軸となるのはデータを起点に各種施策や意思決定を行うデータドリブン経営だ。GXも環境データを起点にすることで、「環境負荷への対応」を通じた業務効率化や業務プロセス変革の道筋をつけることができる。国内でも、自動車メーカーなどグローバルサプライチェーンを構成している企業はこうした“GX×DX”による業務変革を既に進めているという。

CO2排出量の責任範囲は「サプライチェーン全体へ」 対応するには

 では「サプライチェーン全体のCO2排出量の把握」において、具体的に何が求められるのか。従来、把握の責任範囲は「自社が直接排出したCO2」(=Scope1)と「他社から供給されたエネルギー使用で間接排出したCO2」(=Scope2)だった。しかしこの先は、調達や購買といった「上流」と、出荷や破棄といった「下流」での間接排出(=Scope3)を含めた把握が求められるようになる。

画像: サプライチェーン全体の排出量、Scope1~3に含まれるカテゴリー(出典:日立提供の資料。以下同)

サプライチェーン全体の排出量、Scope1~3に含まれるカテゴリー(出典:日立提供の資料。以下同)

 Scope3の間接排出の内訳は上流と下流を合わせて全15カテゴリーに分類される(上図参照)。注意したいのはカテゴリー11「製品の使用」だ。今後、使用時のCO2排出量が少ない製品が選ばれていく中で、素材や部品の製造過程から使用期間、廃棄までトータルで見ないと意味がない。

 「CBAMやESPRが関わるのはScope3(上流)です。しかし企業が環境負荷の本質を見て対応策を検討する上では、Scope1~2はもちろんScope3(下流)も含めた全てに目を向けなければなりません」

カーボンニュートラルの実現 日立が推奨する「3ステップ」

 では、これにどう対応すればよいのか。日立は社会インフラを支えるグローバル企業としてGXに長年取り組んできた。そこで蓄積したノウハウと推進手段を顧客企業に還元しているという。そのロードマップが以下の「カーボンニュートラル実現に向けた3つのステップ」だ。

画像: カーボンニュートラルに向けた3つのステップ

カーボンニュートラルに向けた3つのステップ

 ステップ1は、CO2を含むGHG(温室効果ガス)の排出量を把握する「排出量の見える化」。これには「企業全体の見える化」「製品単位の見える化」の2つが要求される。

 ステップ2は、重点的に対応すべき施策を検討する「脱炭素化手法の検討」。手法としては、エネルギー削減や再生可能エネルギー創出、電化などが挙げられる。

 ステップ3は、ニーズに応じた施策を実行する「脱炭素化施策の導入・実行」。省エネ性能の高い設備や高効率設備の導入や更新、エネルギーの転換、自家発電設備の設置、PPA(電力販売契約)の活用などを進める。

最優先すべきは「排出量の見える化」

 3つのステップで最もハードルが高いのはステップ1の「企業全体の見える化」「製品単位の見える化」だ。実際、「何から手を付けたらいいか分からない」といった初手の悩みから「膨大なExcelの集計作業に疲弊している」といった実践上の悩みまで、竹島氏も多くの相談を受けてきたという。どう対応すべきなのか。

 まず「企業全体の見える化」には、「現状の把握」と「環境データの整理」が必要だ。だが竹島氏によると、CO2排出量を含む環境データは生産工場、非生産工場、国内外の関係会社など部門ごとに管理されている。データの中身もエネルギー、水、廃棄物、資源/容器包装材など多岐にわたり、ほとんどの場合Excelで管理されているという。

 「多くのGX担当部門は、拠点から送られてくる大量のExcelファイルを手作業で集計してサステナビリティーレポートや統合報告書を作成しています。報告書ごとに計算方法が異なる、入力ミスが多発するといった課題に悩まされることも多くあります。そこで重要なのが、一元化された情報管理システムで環境データを可視化、整理することです」

「企業全体」「製品単位」の見える化を実現 データを「価値」に変換

 日立は環境データを一元的に扱えるデータベース「EcoAssist-Enterprise」とCO2排出量の算定や目標設定などを支援するコンサルティングサービスを組み合わせて提供している。EcoAssist-Enterpriseは、拠点から送られてくるExcelファイルをクラウドに直接かつ安全に取り込み、各単位のCO2排出量を一元管理できる。これにより、データ分析や権限に応じた情報開示などを一元的に行える環境が整う。こうして可視化したデータを基に、コンサルティングを通じて具体策の立案を支援する。

 「取得しただけで埋もれている環境データは各社に存在します。EcoAssist-Enterpriseは情報化されていないデータに光を当てて、コンサルティングと併せてデータを価値に転換することを重視しています」

 「製品単位の見える化」についてはどうか。現在は「製品の製造過程の消費電力にかかるCO2排出量」を合算して生産量で割るなど、“みなし”で算出している企業が多い。だが今後は設計情報を基に「どのサプライヤーのどの部品を使って組み立てているか」を製品ごとに管理してCO2排出量を算出しなければならない。

 これに役立つのが「EcoAssist-Pro/LCA」だ。BOM(部品表)をベースに製品単位のCO2排出量を算出できるシステムで、EMS(エネルギーマネジメントシステム)やMES(製造実行システム)との情報連携にも対応。部品だけではなく、加工、組み立て、検査工程に使用した電力量も含めて“精緻な見える化”を実現する。

 「製造ラインの電力量は、メーターなどからデータを引っ張ってこなければならず一元管理が難しいデータです。EcoAssist-Pro/LCAはそうした実測値データ(一次データ)を含めて取り込めて、製品ごとに正確なCO2排出量を算出できます。サプライチェーン全体で脱炭素を推進できる仕組みを開発できるのは、ITとOT※3の知見を長年培ってきた日立だからこその強みです」

※3:Operational Technologyの略称。社会インフラや産業プラントの設備やシステムを最適に動かすための「制御・運用技術」(参考:日立のOT)。

ステップ1~3を一気通貫で GXを「一緒に推進していきたい」

 今後、EcoAssist-Pro/LCAには「最適化シミュレータ」機能も搭載される予定だ。ステップ2「脱炭素化手法の検討」に対応するもので、製品単位のCO2排出量を削減するために代替となる再生材などをシミュレートできるという。

 日立のWeb EDIサービス「TWX-21」との連携も予定している。サプライヤーの選定から購買、調達、生産といった一連の流れをデジタル化するTWX-21の情報に、今後はCO2排出量のデータを付与してEcoAssist-Pro/LCAに取り込めるようになる。TWX-21は20年以上の歴史を持ち、多くの顧客を抱えているサービスだけに「GX推進上のインパクトは非常に大きい」(竹島氏)と見込む。

 この他、カーボンニュートラルに向けた投資計画のコスト試算やロードマップの見直しができるツール「CNナビゲーター」とコンサルティングサービスによってステップ2を支援。多彩な「削減ソリューション」によってステップ3もサポートする。企業のカーボンニュートラル、ひいてはGX実現を多角的かつ包括的に支援していくという。

画像: 日本企業GXの現在地と、今取り組むべきこれだけの理由

 「日立は、“Digital for all.”というメッセージを掲げてデジタルを活用したサステナブルな社会の実現をめざしています。地球環境を守り、豊かな暮らしも両立させていく――その鍵こそがGXです。当社自身が蓄積してきた経験、ノウハウ、手段を基に、ぜひ皆さまとGXを進めていきたいですね」

 クリーンエネルギー化へ向かう社会全体のパラダイムシフトにより、企業は大きなチャンスとリスクに直面している。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、いかに一日も早くGXに着手し、効果的・効率的に進めるか。企業のスタンスが問われている。

●Excelは、マイクロソフトグループの企業の商標です。

関連リンク

ITmedia 2024年10月28日掲載記事より転載
本記事はアイティメディア株式会社より許諾を得て掲載しています
Digital for all. ―日立製作所×ITmedia Specialコンテンツサイト

This article is a sponsored article by
''.