日立は、建設や輸送、電力、ガス、鉄道などの現場で働くフロントラインワーカーの人手不足の解消や知識継承などの課題解決に向け、熟練者のノウハウを取り込んだ顧客専用のAIエージェントを提供する「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」を3月31日より販売開始する。本サービスは、生成AIを活用した業務効率化やサービスの高度化など経営改革を推進する顧客を伴走型で支援する生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada*1 のメニューとして提供するものである。高度なAIスキルを有する日立の GenAI Professional が、日立グループにおける数百の事例で獲得したOT*2 ナレッジのAI活用スキルと体系化されたツールや技術を使いこなし、顧客に伴走しながら、OTナレッジを活用したAIエージェントを迅速に開発・提供することで、フロントラインワーカーの業務効率向上を支援する。
現在、日立はグループ全体でAIによる業務支援を推進しており、数百の業務向けAIアプリの開発を行っている。例えば、日立ビルシステム や 日立パワーソリューションズ では、インフラ設備の施工(据付工事)やメンテナンス業務に伴う問い合わせ対応、初動判断へのAI活用による業務の負担軽減や効率化の取り組みを進めている。これらの取り組みの中で、GenAI Professional は、エスノグラフィー*3 やAIインタビュー*4 などの手法を用いて熟練者の暗黙知を抽出し、多様なフォーマットや構造を持つ帳票・設計文書などの形式知と紐づけてAIが利用できる学習データを準備するなど、現場でのAI活用の実績を積み重ねてきた。
日立は、このような事例を通じて獲得したOTナレッジの抽出手法や業務別のAIアプリ部品、OSS*5 といった先進技術を活用することで、熟練者のノウハウを取り込んだ顧客専用のAIエージェントを提供することができる。また、すでに社内で運用実績のあるAIエージェントを基に、顧客の業務に合わせてカスタマイズするため、迅速な導入が可能になる。今回、熟練者のOTナレッジを取り込んだ高精度な回答を生成できるAIエージェントの第一弾として「保守問い合わせAIエージェント」を開発した。
今後も、日立は、社内外において、さまざまな業務に特化したAIの活用を促進し、そこで培われた技術・ノウハウをサービスとして提供していく。また、より高度な安全基準が求められる業務へのAI適用をめざし、AIで活用する情報の信頼性判断や、不適切な回答を制限するAIガードレール保護といった研究開発も進めている。これらにより、現場で働くフロントラインワーカーの業務効率を向上し、労働力不足の解決を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していく。
※ 画像は「生成 AI 活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada」の強化のイメージ
*1: ニュースリリース(2024年7月22日発表)「生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumadaを提供開始」
*2: 運用・制御技術
*3: 文化人類学や社会学において調査対象となる人々と長期間共に生活し、観察やインタビューを行うことによって、その集団(民族,社会)の文化や生活様式を明らかにする社会科学の方法論。人々の実際の行動を詳細に観察し、得られたデータの分析を通して、現象の構造やプロセスをストーリーとして描き出し、本質的な課題を明らかにすることを可能とする。
*4: 自然言語処理や機械学習を活用し、インタビューの設計、質問の生成、実施、分析までを支援することで、効率的かつ高精度な知識の抽出やデータ収集を実現する手法。
*5: Open Source Software
背景
近年、労働人口減少により、社会インフラを支える現場での労働力不足が深刻化している。現場の業務では、経験に基づく勘やコツなどの暗黙知が多く、熟練者への依存が進んでいる。加えて、万一の障害発生時には迅速な復旧が求められるため、現場で働くフロントラインワーカー一人ひとりの業務負担が増加している。そこで、デジタル技術を活用した業務変革が急務となっており、AIを活用した取り組みに期待が高まっている。しかし、熟練者から暗黙知を引き出し、形式知に紐づけることが難しいため、現場業務へのAI適用が進みにくい状況となっている。
サービスの特長
1. AIエージェント開発・運用・環境提供サービスについて
顧客の業務に特化したAIエージェントの開発から、稼働環境の構築・運用まで End to End で支援する。日立の GenAI Professional が、エスノグラフィーやAIインタビューなどの手法を用いて、熟練者が業務経験から得た直感や判断基準を引き出す。また、顧客固有の設備図面や保全記録など多様なフォーマットを持つ複雑なドキュメントであっても、補正しながら学習データやRAG*6 を構築し、業務で求められる回答精度の実現を支援する。
AIエージェントの開発・実行環境については、AIエージェントの自律的な動作を支援する LangGraph や Dify といったオープンな先進技術を利用できる。また、顧客の業務内容や適用範囲などのニーズにあわせて、パブリッククラウドで小規模に導入・検証したり、プライベートクラウドで機密性が求められるデータを利用するための環境を構築する。さらに、本環境は日立がマネージドサービスとして維持・保守するため、顧客は安心してAIエージェントを業務に利用し続けることができる。
2. 保守問い合わせAIエージェントについて
今回、日立のAIエージェント第一弾として「保守問い合わせAIエージェント」を開発した。日立グループの問い合わせ業務で実績のあるAIアプリ機能をベースにしており、顧客固有のドキュメントや辞書などを登録することで、迅速かつ正確な回答で業務支援するAIエージェントを実現できる。本AIエージェントは、問い合わせ内容を分析し、適切な担当者へ自動配信する機能や、問い合わせ内容を自動で深掘りし、必要な情報を収集する機能なども備えている。これらの機能を、顧客の業務プロセスに応じてカスタマイズすることで、保守や障害対応を行う際の多岐にわたる問い合わせ業務を高度に支援できるため、サービス品質向上と業務効率化に貢献する。
*6: Retrieval-Augmented Generationの略。言語モデルに、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術のこと。
日立グループの実践的な取り組み事例
日立ビルシステム、日立パワーソリューションズの取り組みにおいて蓄積された、問い合わせ業務固有の情報取得・抽出ノウハウを、AIエージェント開発のコア技術として「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」に取り込んでいる。
(1) 日立ビルシステム
日立ビルシステムは、エレベーターなどのビル設備や、グリーン&スマートビルソリューションを提供する日立のビルシステム事業の中核会社である。日立は、ビルシステム事業において約26,000人の生産、施工、メンテナンスを担うフロントラインワーカーを擁しており、これまでに185万台超のエレベーター等を納入し、デジタル技術を活用したメンテナンスサービスを提供している。
今回、エレベーター施工現場における管理者からの問い合わせ業務を革新するAIアプリを開発し、フロントラインワーカーの業務効率向上をめざす取り組みを推進している。日立ビルシステムのエレベーター施工においては、毎月約100件、平均対応時間約30分/件の問い合わせが発生しており、専門知識を持つエンジニアが据付マニュアルをはじめとする関連ドキュメントを確認しながら対応するため、回答に時間を要し、業務効率の向上が大きな課題となっている。AIアプリの開発において、GenAI Professional がエレベーター施工に関連するさまざまなドキュメントを技術支援部門のエンジニアの知見に基づいて生成AIに紐づけるとともに、回答精度の向上を支援した。これにより、問い合わせ内容に対して約80%*7 の精度で瞬時に関連情報を抽出して表示することができ、問い合わせ対応に掛かる時間と工数を削減し、エレベーター施工の作業効率自体も向上することが可能となる。

(2) 日立パワーソリューションズ
日立パワーソリューションズは、エネルギー・インフラ関連分野において、デジタルを活用したサービス事業やグリーン事業を行っており、上下水道、鉄道など約3,000サイト*8 の制御システムを含む、社会インフラ設備の保守サービスを展開している。その中でも、制御機器の障害発生時に、顧客から対応依頼を受けるサービスレスポンスセンタでは保守受付担当の初動判断にAIの活用を開始した。これにより、業務効率を約30%向上できる見込みである。
サービスレスポンスセンタの保守受付担当は、現場に駆け付ける保守フロントラインワーカーへ作業指示を行うにあたり、設備や制御機器に関するマニュアルや過去の障害対応事例などの膨大なドキュメント類から必要な情報を引き出し障害の原因分析・対策立案するため、労力と時間が必要になる課題があった。そこで、各種ドキュメントからの情報抽出ノウハウを組み込んだAIアプリを導入したことで、制御機器の障害内容に応じた適切な情報探索を高速化し、保守受付担当の初動判断を効率化・迅速化することで、顧客へのサービス品質向上を支援している。

*7: 最新機種で確認
*8:2024年時点
新サービスの価格と提供開始時期
名称 | 概要 | 価格 | 提供開始時期 |
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AIエージェント開発・運用・環境提供サービス | 顧客のデータを利用したAIエージェントを開発・運用できる環境を、構築・提供するサービス。 | 個別見積 | 2025年6月30日 |
保守問い合わせAIエージェント(オプション*9) | 日立ナレッジを活用して開発した保守問い合わせAIエージェント。顧客業務にあわせてカスタマイズ可能。 | 個別見積 | |
*9: AIエージェント開発・運用・環境提供サービスで提供される環境上で稼働するAIエージェントとなる。
関連リンク
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