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AIの新たな時代が、いま幕を開けようとしています。変圧器から交通管理に至るまで、ミッションクリティカルなシステムの開発・導入・自動化のあり方を変革しているインダストリアルAI。本シリーズでは、日立がインダストリアルAIの革新力を、最前線からご紹介します。

業界特化型アクセラレーターの体系化により、企業はインダストリアルAIの導入を迅速化し、ニーズに応じて柔軟かつスケーラブルに展開可能となります。

AI導入における一般的なデジタル障壁ーデータクレンジングやバイアス検出などーは克服されつつある一方で、「人財スキルの壁」が依然として最も根強い課題であることが明らかになっています。
人財不足とアップスキリング施策の欠如が重なることで、「どこからAIを導入すべきか」「どのように実装すべきか」企業側が明確な指針を持てない状況に陥ることがあります。このような指針の欠如は、断片的かつ部門ごとに孤立したモデル開発を招き、コストの急増や投資対効果の不透明化を引き起こします。従来のAI導入にとっても大きな障壁ですが、より厳密な検証が求められるインダストリアルAIの展開においては、こうした課題が開発そのものを阻害しかねません。

この課題意識こそが、日立のマネージドサービス部門におけるインダストリアルAIの実践的アプローチを生み出す原動力となりました。日立は、既存プロセスにAIを外付けするアウトサイドイン型ではなく、業界ごとの専門領域に向けてAIアクセラレーターを内側から構築するインサイドアウト型の視点で導入を進めています。

この取り組みは急速に進化し、インダストリアルAIの構成要素を体系的に分類したグリッドへと発展しました。元素の周期表のように整理されたこの枠組みにより、エネルギー・交通・製造など多様な業界の企業は、自社の業務課題に応じて導入ポイントを選択できるとともに、スケーラビリティと投資対効果(ROI)の明確なビジョンを持つことが可能となります。
これが、インダストリアルAIアクセラレーターを体系化した「Praxis Library」誕生の背景です。

導入に秩序をもたらす

「AIが産業分野で広く導入されていない最大の理由は、多くの企業がカスタムモデルを構築・学習させるためのリソースを持っていないことです」と語るのは、Hitachi Digital ServicesのCTO兼AI部門責任者であるPrem Balasubramanian氏。「このプロセスには莫大なコストがかかり、実運用に耐えうる精度に達するまでに膨大なトレーニングサイクルが必要となるため、よほどの価値が見込めない限り、企業はその投資に踏み切る余裕も忍耐力も持ち合わせていません。」

日立は、インダストリアルAIのカスタム構築で得た知見と、社内に蓄積された豊富なドメイン知識を活かし、Praxis Libraryを開発しました。これには、製造業向けの資産デジタルツインやモデルベースの歩留まり予測、ユーティリティ分野向けのエネルギー予測・消費分析・変電所画像解析など、業界別(縦軸)のアクセラレーターが含まれています。さらに、炭素排出量の監視、資産可用性の追跡、衝突検知といった、業界横断(横軸)の共通機能に対応するAIアクセラレーターも網羅されています。

画像: 導入に秩序をもたらす

その結果、AIの導入は格段にスピードアップし、コストも大幅に抑えられるようになりました。各企業独自のニーズに合わせた調整は依然として必要ですが、アクセラレーターを活用することで開発作業の40〜50%を完了させることができると、Balasubramanian氏は述べています。投資回収が見込めないかもしれないAI検証に多大な時間と資金を費やす代わりに、現場での成功実績を持つソリューションを選択することができるのです。

「私たちはこれをAIの『アセット化』と呼んでいます」とBalasubramanian氏。「産業用途のAIにはそれぞれカスタマイズが必要ですが、共通項を見出すことで、導入の出発点を明確にし、AI活用の加速と障壁の低減につながるのです。」

Praxis Libraryの具現化

現在のAIブームは、2022年秋にChatGPTが公開されたことに始まりますが、日立はそれ以前から長年にわたりインダストリアルAIソリューションの構築に取り組んできました。ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は確率的な性質を持ち、同じ質問を繰り返しても異なる回答を生成することがあります。また、必要な情報が学習データに存在しない場合には、誤った回答を“ハルシネーション”として生成してしまうことも知られています。

一方でインダストリアルAIは決定論的な性質を持つと、Balasubramanian氏は言及しています。これは、極めて専門的な学習データから、高精度な回答を導き出す構造に基づいています。多くのLLMユーザーは、多少の誤りを許容できますが、インダストリアルAIの特に交通・重機やその他公共安全などに関わる領域では、極めて高い精度が不可欠です。誤作動が発生すれば、作業員や一般市民の安全を脅かす可能性があるだけでなく、修復に伴うコストも甚大となるためです。

「インダストリアルAIはハルシネーションを許容しません」とBalasubramanian氏。「この種のAIは、鉄道や変電所などのミッションクリティカルなシステム向けに設計されているため、こうしたユースケースでは、回答の類似性だけでは不十分であり、常に同一の答えが求められるのです。」 
--*インダストリアルAIの重要性についてさらに知りたい方は、「インダストリアルAI:Move Fast, Break Nothing」をご覧ください。--

2015年、日立は大手物流事業者と提携し、AIを活用した予防保全ソリューションを構築しました。当時、トラックの故障は平均2週間の修理時間を要し、会社全体で巨大な生産性損失を生んでいましたが、新たに導入された「Guided Repair」ソリューションにより、修理時間は1時間未満にまで短縮されました。その後、同社は日立にリアルタイムで車両を監視(このソリューション下で15万台)、車載診断(OBD)機器からデータを収集し、故障の予兆を検知するAIソリューションの開発を依頼しました。このソリューションは、故障コードに基づく作業指示書の自動生成にも対応しており、平均48時間以内にトラックを再稼働させることができるのです。昨年は約9万台のトラックの故障を未然に防ぎ、物流事業者に年間数百万ドル規模のコスト削減効果をもたらしたと、Balasubramanian氏は述べています。

その後、日立は航空機エンジン向けに強靭な予知保全フレームワークを構築しました。航空機エンジンおよび車両管理における取り組みは、収集されるデータの種類や量、データ伝送のタイミングなど、特定の運用状況に合わせて調整されていますが、両者に共通する基本原則は一貫しています。これらの知見は、Praxis Library内の「Predictive Maintenance」アクセラレーターに集約されており、実績ある基盤を活用することで、企業は自社のAIイニシアティブを迅速に立ち上げることが可能になりました。

「技術的な実装は状況に応じて異なる場合がありますが、予知保全の課題に対する戦略的なアプローチは一貫しています」とBalasubramanian氏。「私たちの知見をリファレンスアーキテクチャやアクセラレーターに組み込むことで、お客さまがゼロから構築する負担を軽減し、より迅速かつ確信を持って進められるよう支援しています。」

パートナーの産業知識の体系化

今後についてBalasubramanian氏は、既存のPraxisアクセラレーターの「エージェント化」や、異なるAIツールが自動的に連携して複数のステップを処理する「マルチエージェントワークフロー」の実現を予測しています。ただし、こうしたAIソリューションの最適化には、産業分野とAIの両方に深い専門知識を持つパートナーでなければ解決できない多くの課題があると警告しています。 

たとえば、各AIタスクに最適なモデルを選定するかどうかで、AI導入が高い収益性をもたらすか、逆にコスト超過を招くかが分かれる可能性がある、とBalasubramanian氏は述べています。さらに、企業レベルのAIソリューションには、高度なセキュリティ対策が求められます。具体的には、プロンプトインジェクションや脱獄など、AI特有の攻撃から機密性の高い産業データを守るための精緻な安全設計が必要です。

2024年10月、日立は「R202.ai」フレームワークを発表しました。これは、Reliable(信頼性)、Responsible(責任性)、Observable(可視性)、Optimal(最適性)を意味しています。Praxis Libraryはこの4つの柱を中心に設計されており、企業が高額なPoCを省略し、自社環境に適したソリューションを初期段階から導入できるよう支援しています。

「今では、AIのプロトタイプを立ち上げる障壁はほとんどありません。誰でも2週間あれば何かしらの仕組みを作ることができます」とBalasubramanian氏は述べています。「しかし、組織にとって本質的な価値を生み出すには、ソリューションが信頼性・責任性・可視性・最適性を備えている必要があります。この4つの要素が揃って初めて、プロトタイプから本番環境への移行が可能になるのです。」

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画像: インダストリアルAIにおける障壁の低減とリターンの最大化

Prem Balasubramanian
Prem Balasubramanian氏はHitachiDigital Servicesの最高技術責任者(CTO)であり、日立製作所のグローバルAIアンバサダーも務めています。Hitachi Digital Servicesは日立グループの一員であり、ミッションクリティカルなプラットフォームを人とテクノロジーの力で支えるグローバルなシステムインテグレーターです。

Hitachi Digital ServicesのAIに関する取り組みについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

*こちらはCIOの記事を翻訳したものです。

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