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AIの新たな時代が、いま幕を開けようとしています。変圧器から交通管理に至るまで、ミッションクリティカルなシステムの開発・導入・自動化のあり方を変革しているインダストリアルAI。本シリーズでは、日立がインダストリアルAIの革新力を、最前線からご紹介します。

「英語は新しいプログラミング言語である」という格言は、企業向けソフトウェアの世界で現実のものとなっています。自然言語処理やAIコパイロットの台頭により、これまで業界で「コーディング」と呼ばれてきた作業は過去のものとなりつつあり、現在ではアイデアや意図が開発を動かす原動力となっています。

しかし、この新たなパラダイムへと移行する中で、ひとつ重要な要素が見落とされつつあります──それが「統合」です。これまで企業は、全社的にソフトウェアプラットフォームを導入・運用し、必要に応じて部分的なアップデートや新しいモジュール、補完的なツールを追加することで、プラットフォームの進化と業務の最適化を図ってきました。

ただし、コパイロットやローコードツール、特定領域向けのAIツールなど、AIを活用したツールを導入する際には、必ずしも同じようにうまくいくとは限りません。実際のところ、AIツールが期待された投資対効果を生み出せないケースが少なくありません。多くの企業では、プロセスの再設計や課題の解消、人材のスキルアップ、効果測定に必要なデータの取得などを十分に行わないまま、スピードだけを追求してしまい、その結果、ツールがもたらすはずだった成果が実現されず、投資対効果も不透明なままとなってしまうのです。

各業界の開発者たちが、よりスマートで調和のとれたツール統合方法を模索する中、日立は一見意外とも思える革新的なアプローチでこの課題に挑んでいます。従来のように既存プラットフォームの上に新たなソフトウェアを重ねるのではなく、問題の根本──つまりソフトウェアを企画・開発・運用・保守する一連のプロセスを体系化したSoftware Development Lifecycle (以下、SDLC)に着目し、企業がSDLCを捉える視点を大きく変えることに成功しました。

オーケストレーションの新しいかたち

オーケストレーションとは、開発プロセス全体をつなぎ、効率的に進めるための調整を指します。現在のオーケストレーション手法を理解するために、日立グループGlobalLogicでSDLC最高技術責任者を務めるSuhail Khaki氏は、それを自動運転に例えています。

「例えばテスラの場合、目的地の住所を入力して自分で運転をしますが、交通状況や直線道路でリラックスしたいときなど、特定の条件下でのみ『自動運転モード』を使います」とKhaki氏は語ります。「このモードでは、人間が車をツールとして使い、A地点からB地点まで移動するのです。」

このような状況では、人がすべての工程のオーケストレーション(切り替え)を手動で管理する必要があります。アジャイルのような最新のSDLC管理手法でさえ、各ステージ間の引継ぎ作業に大きく依存しており、それが開発全体の10〜20%を占めることもあります。こうした遅延が積み重なることで、プロジェクト全体の進行が鈍化してしまうのです。

一方で、テスラの「完全自動運転(FSD)」機能を使えば、車が自律的に目的地まで走行し、人間には対応が必要な場面だけ通知が届く仕組みになっています。

「これが、私が思い描くAI主導のソフトウェア開発ライフサイクルの未来です。AIが開発の各ステージをエンドツーエンドでオーケストレーションし、必要なときだけ人間が関与するのです」とKhaki氏は語ります。

開発プロセスにスピードという要素を加える

速度を最優先に据えた結果、生まれたのが「VelocityAI」です。このプラットフォームは、AIによる高度なオーケストレーションに加えて、文脈情報や動作データを、SDLCの中核機能として備えています。Velocity AIでは、AIエージェントが要件定義から開発、テスト、運用開始に至るまでの流れを管理し、従来のような固定的なプロセスゲートではなく、「意図」と「文脈」に基づいて動作します。さらに、「意図に基づくルーティング」と「意味的な優先順位付け」によって、利用者の目的に応じて、何を、どの順番で実行すべきかが自動的に判断されます。

「『要件を作成してほしい』と指示すれば、関連するシステム、ドメイン、プロジェクトのデータを取り込み、自動的に要件一覧を生成します」と、GlobalLogicのテクノロジー担当Senior Vice PresidentであるRaj Sethi氏は語ります。「さらに、プロダクトオーナー、ビジネスアナリスト、品質エンジニア、アーキテクト、エンジニアの間で調整を行いながら、要件一覧を“実行可能な状態”に仕上げていきます。」

このアプローチの中核にあるのは、医療、自動車、通信といった業界の特有のニーズに対応するために設計された文脈認識型のナレッジエンジンです。  

Sethi氏は「それぞれの状況に合わせた意図や文脈の把握は極めて重要です。それ抜きでは、どれほど賢くても問題は解決できません」と強調します。

開発者に“白紙のキャンバス”を与えるのではなく、システム側が状況に併せて必要な情報を提供する──その差は大きいのです。「例えるなら、スペルミスには波線、文法ミスには赤い下線が自動で付き、校正を助けてくれるのと同じです。一言一句すべて自分で確認するのとは雲泥の差です」とSethi氏は述べています。

ソフトウェアと機械が連携するとき

はっきり言ってしまえば、企業はAIツールにまつわる課題であふれています。統合機能の不足、従業員がIT部門の承認なしにツールをダウンロードする「シャドウAI」の急増、リスク評価の一般的な欠如など、これらの要因は現場に深刻な混乱を招いています。

2023年末に MIT Sloan ManagementReview と Boston Consulting Group が87カ国・59業界・1,240名に実施した調査によれば、他社製のAIツールが、組織におけるAI関連の失敗の55%超の原因となっていました。しかし、エネルギー、交通、製造といったミッションクリティカルな産業領域では、そのようなリスクは決して許されないのです。

Velocity AIにおけるオーケストレーションの考え方は、まさに、ソフトウェアが物理的な機器や各種センサー、そして現場の業務と連携しなければならない産業分野向けに設計されています。AI
を核とするオーケストレーションによって、このプラットフォームは法令やコンプライアンスの遵守を自動で徹底することをめざしていますが、その実装の複雑さは環境によって異なります。つまり、開発者が自然言語で要件を記述すると、プラットフォームは指示されなくてもHIPAA(米国の医療情報保護規則)や自動車の安全基準などの関連規制を適用してくれるのです。

「AIは今や、要件をコンプライアンスの文脈で解釈し、手作業でのレビューの必要性を減らしています」とKhaki氏は述べています。「以前は5人の専門家が必要だった検証を、今では1人のドメイン専門家で行えるようになりました。」

開発を加速し遅延を減らす

日立グループのGlobalLogicはVelocity AIの基盤技術を活用し、ある顧客の車両レンタルおよび管理プラットフォーム向けのプロモーションシステムを刷新・高度化しました。従来のシステムは、簡単なプロモーションの追加や変更でさえコード修正が必要で、J2EEという旧式の技術とAS400上のデータベースによって構築されていました。このプロジェクトは、従来の手法では実現困難だったわずか6か月という短期間で本番稼働に到達したと、Sethi氏は語っています。さらに、このシステムは進化を遂げ、車両モデルを視覚的に識別し、技術者に修理手順を段階的に案内する修理支援機能を備えました。加えて、追加の専用ハードウェアを必要とせず、車両を自律的に追跡し、損傷を評価する映像解析システムも組み込まれています。

現在、Velocity AIは通信、自動車、デバイステストなど、幅広い業界へと展開されています。しかし、その真のインパクトは単なるスピードの向上にとどまりません。AIを組み込んだ新しいSDLCアプローチによって、チームはアイデアを迅速に試し、何が有効かを見極められるようになったのです。

「今ではアイデアを数時間でテストし、検証できるようになりました。以前は不可能だったことです」とKhaki氏は語ります。「オーケストレーションの課題を解決することは、コンピューター革命に匹敵するAIのインパクトを解き放つ可能性があります。つまり、大規模な導入、実験、そしてイノベーションを推進する力を持っているのです。」 

GlobalLogic VelocityAI, AI-powered Solutions

GlobalLogicは、日立グループの一員として、エクスペリエンスデザイン、エンジニアリング、ソフトウェア開発、テストサービスを提供しています。

VelocityAIとGlobalLogicの連携により、産業向けAIワークストリームのオーケストレーションをよりスマートに実現することが可能になります。

Suhail Khaki

GlobalLogic SDLC最高技術責任者

Raj Sethi

GlobalLogic テクノロジー担当 Senior Vice President

*こちらはCIOの記事を翻訳したものです。

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