International Conference on Quality 2025(以下、本国際会議)は、1969 年に東京で初めて開催された「品質管理国際会議」を契機に、アメリカ品質協会(ASQ)、ヨーロッパ品質機構(EOQ)、日本科学技術連盟(JUSE)の3 機関が、国際品質アカデミー(IAQ)の協力を得て、3 年ごとに持ち回りで開催してきた、世界有数の歴史ある会議です。
本国際会議のメインテーマである「Quality Next ~品質の進化が未来を拓く~」のもと、世界各国から学術界や産業界のトップマネジメントやリーダーが集い、品質経営戦略、プロセス改善、デジタル化とAI活用、人材開発と組織文化醸成、調達管理、新規事業開発など10 の主要テーマをもとに、最新の品質に関する研究成果や実務経験を共有しました。
日立グループは、日立製作所の品質保証統括本部の取りまとめのもと、グループ全体から6つの主要テーマに渡る9件を発表しました。各発表とも会場が満席で、質疑応答も活発に実施されるなど、日立グループの品質保証活動に対する関心の高さを確認できました。
講演概要
テーマ:新規事業開発
講演者:日立製作所 品質保証統括本部 部長 西村 孝一郎
Hitachi Europe, Global Quality and Manufacturing, Strategy Officer, Nashaat Salman


本発表では、2019~2020年に実施したHitachi Energyの統合ケースをもとに、リーダーシップ主導の戦略により、多国籍企業が多様なチームを統合し、強力な品質文化を確立させ、顧客中心の品質の卓越性を確保する方法を検証しました。発表の中で、日立製作所とHitachi Energyの創業地域(日本と欧州)の品質確保に対する考え方の違いを明確にし、統合における日立の品質組織のグローバル化と品質保証の基本理念をHitachi Energyに適用したアプローチを紹介しました。
日立製作所の本社・セクターの品質保証部門を通じた海外拠点を含むグローバルな品質保証組織の構築、日立の品質保証の基本6項目である「品質保証部門の独立性」、「落穂拾い」、「品質コンプライアンス遵守」などについてHitachi Energyへの導入に向けた課題およびその解決におけるアプローチを紹介しました。
特に「落穂拾い」は日立の創業精神に基づく独自の品質改善活動であり、本発表では、落穂精神を含む活動をHitachi Energyにおいてどのように理解・浸透を進めたかを詳細に説明しました。また、これらの事例から文化の違いを克服し、製造およびデジタルソリューションのグローバルリーダーになるという日立グループの長期方針によって推進される、シームレスなグローバル品質変革を達成するための重要な教訓について紹介しました。
テーマ:グローバル品質管理システム(GQMS)によるデジタルビジネス成長の加速
講演者:日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 品質保証統括本部 Vice President
Ashish Hanjagi
本発表では、最新のグローバル品質マネジメントシステム(以下、GQMS*1)について発表しました。日立は、持続可能な社会の実現をめざし、Lumada*2を活用した品質マネジメントの強化に取り組んでおり、日立グループの新経営計画である「Inspire 2027」と連携したグローバル品質マネジメントシステム「GQMS」の特徴が紹介されました。GQMSは、従来の中央集権型の管理ではなく、各グループ会社が自社の強みを活かしながら運用し、優れた取り組みを日立グループ全体で共有することで、品質レベルの底上げを図る仕組みです。導入にあたっては、現場の負担を軽減し、自発的な改善活動を促す工夫も重視されています。
質疑応答では、現場への浸透方法や課題解決の工夫、AIやデジタル技術の活用など、実践的な質問が多く寄せられ、活発な議論が展開されました。特に、現場担当者が日常業務と並行して改善活動に参加できる仕組みや、経営層の支援の重要性について関心が集まりました。今後もGQMSは進化を続け、日立グループ全体の連携強化とお客さまからの信頼向上に貢献していきます。
*1 GQMS:Global Quality Management System
*2 Lumada:お客さまのデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジーの総称
日立のキーパーソンへのインタビュー
企業における、品質保証活動の重要性について教えて下さい
西村
品質保証活動は、顧客や社会からの信頼を得るために非常に重要な活動です。企業が社会インフラや製品を提供するにあたって、品質を維持することは顧客の要求に応えるだけでなく、企業の社会的責任を果たすためにも不可欠であり、企業の価値や評判を高める重要な活動であることから、企業の利益にも直結します。
企業が品質保証活動において直面する課題や問題点として、品質コンプライアンス違反をいかに防ぐかということも求められます。そのため、品質保証における監査や自己点検の仕組みが必要です。そして、一番重要な点は企業における基本的な倫理観として利益や損失よりも正しいことを優先する姿勢です。日立を含む日本企業においては、品質を重要視する行動や意思決定が求められ、失敗から学び、改善を重ねる文化が根付いています。これは日本だけでなく、グローバルにも広がりつつあります。

日立製作所
品質保証統括本部 品質保証本部 部長
西村 孝一郎(にしむら こういちろう)
日立がグローバルに活動していくうえで、品質保証活動はどのようなアプローチで臨むべきなのでしょうか?
Salman
私からはコーポレート品質保証という視点で、3つの観点を示したいと思います。
1つ目は、日立の品質に関する基本理念を、日本における品質遵守の精神に深く根ざした形でシームレスに導入しつつ、グローバル基準に再適応させることです。こうした基本理念をグローバル基準と融合・適応させることで、基本理念は変えることなく、その実践が国際的にも共感を得られるようにすることが重要です。そのためには、日本以外の地域や事業部門と継続的に連携し、日立の基本理念と統一された品質ビジョンのもと、製造活動およびデジタル面の事業部門や地域、拠点全体で一貫して整合され展開されるように努める必要があります。単に日立の基本方針の展開だけでなく、品質遵守や顧客第一のマインドセットの維持、さらには継続的に行う改善文化(カイゼン)や人財育成の促進につなげることが大事です。

Hitachi Europe
Global Quality and Manufacturing Strategy Officer
Nashaat Salman(ナシャート サルマン)
同時にこれらの基本理念や精神が品質保証のグローバル標準に適応することも重要です。意義のある品質トランスフォーメーションのためには、文化的な面に深く入り込むこと、一貫したリーダーシップによるコミュニケーション、そして日立の多様なビジネス文化の強みを尊重しつつ、日立の品質に関する基本理念を維持するハイブリッドモデルを、一体となって作っていく意識が必要です。
2つ目は、グローバル品質保証の強化を通じた、One Hitachiのコラボレーションにおけるマインドセットの醸成があります。私たちは、品質保証活動を通じて、事業部門や国・地域間のギャップを埋め、連携レベルを向上させることに取り組んでいます。そのために、One Hitachiでの品質活動を強化して潜在的なシナジーを顕在化し、最終的には新経営計画 「Inspire 2027」におけるビジョンと戦略を、品質保証の観点から実現できるようにすることで、品質保証を日立の長期的な変革に結びつける共通の目的意識となるようにしていきます。
3つ目は、生成AIに関しては、パラダイムシフトを予測し、品質保証の観点から、より先見的なアプローチが求められます。生成AIの進化は、業務のあり方に大きな変化をもたらします。例えば、クロスファンクショナルなAIオーケストレーションへと移行すると予想します。こうした中で、生成AIを通じた品質保証をどのように実現し、コンプライアンスを確保するかが課題であり、私たちはこの変革を主導していく立場にあります。そのためには他部門よりもより生成AIを理解し、品質向上のために活用することが重要です。現在、品質保証部門主導の施策を立ち上げ、生成AIを活用して品質プロセス、コラボレーション、顧客価値を再構築することをめざしています。
グローバルにおける品質保証活動は、日本とどう違うのでしょうか?
Salman
非常に複雑な論点ですので、その違いを一般化することは難しいのですが、文化の融合、すなわちハイブリッド化した考え方が重要だと考えています。日立のような多国籍企業である日本発のグローバル企業は、文化の融合、つまり品質文化の融合を進めることが重要です。
一般的に、日本における品質保証活動は、カイゼンと呼ばれる継続的な改善活動に深く根ざしており、品質保証に関する集合的マインドセットに基づいています。一方、西洋の品質活動のマインドセットは、バリューチェーン全体に責任が分散される形態です。日本における品質保証の文化は、予防的かつ強くコンプライアンスを遵守する傾向にあり、品質維持が強い役割を持ちますが、世界の他の地域では総合品質管理や品質責任の分散が主流で、分析的・統計的手法を活用します。
日本において特徴的なのは、品質保証のアプローチは、合意形成やカイゼンのマインドセット、品質サークルに重きを置き、集合的所有の精神が強調され、特にトップマネジメントが根本原因分析に深く関与し、データに基づく意思決定を推進するという点です。こういった両者の違いはありますが、日立は両者の文化融合の好例として、日本の品質精神を維持しつつ、グローバル標準に適応することをめざし、実践しています。
日立の「落穂拾い」について最初に知った時の印象はどう思われましたか?
Salman
私が日立の独自文化である落穂拾いについて初めて学んだ際、全社横断的な関与やリーダーシップの参加、失敗を恥じずに語る文化が特徴的だと感じました。私自身、ABB時代に日立への統合プロジェクトのため、日立の生産拠点を訪れたことがあったのですが、いわゆる日本の品質保証のマインドセットである「モノづくり」と「カイゼン」の考え方がしっかり根付いていると。その経験があったので、落穂拾いの根底にある、問題の根底に深く掘り下げて分析するという考え方は、いわゆる日立の「和」「誠」「開拓者精神」という創業精神と密接な関係性があるということも知ることができました。
Hanjagi
落穂拾いの考え方は、製造活動だけでなく、ソフトウェア開発にも活かされており、成功事例と失敗事例の両方から学ぶことが重要となっています。特にIT分野では技術変化が速いため、失敗だけでなく成功事例からの学びも重視されています。コンサルティングやサービス事業においても、こういった考え方はプロジェクトの立て直しに主に用いられています。
日立におけるDSSセクターの事業観点で、グローバルな品質保証活動を行うことはどういった意義があるのでしょうか?
Hanjagi
事業観点における品質保証では、日本においてもグローバルにおいても非常に重要であることは同じです。グローバルの品質保証においては、この機能は通常「デリバリーエクセレンス」または「デリバリーアシュアランス」と呼ばれています。いわば、品質保証の視点とプロジェクト管理やデリバリーマネジメントの視点の両方を有しています。
グローバル側の品質保証活動は、主にプロセスレベルで行われており、適切なプロセスを設計し、人財育成を行います。そしてプロセスがプロジェクトレベルでどのように実行されているかを統計分析やデータに基づいてモニタリングします。そのために、プロセスや人財の能力を向上させることに重点を置いています。つまり、グローバルにおける品質保証活動は、顧客への約束を果たすために、組織の能力向上をめざすという狙いがあります。

日立製作所
デジタルシステム&サービス統括本部 品質保証統括本部 Vice President
Ashish Hanjagi(アシシ ハンジャギ)
一方、日本側の品質保証活動では、上記のプロセスQAに加えてエンジニアリングQAも行われています。これは製造活動に由来する考え方で、具体的にはサンプリングやチェックを行い、個別に検証するというものです。
両者の違いを申し上げると、グローバル側はプロセスレベルで、各メンバーが自分の仕事を理解し実行することが求められており、品質保証部門は質の高い成果を出すための権限が与えられています。また、グローバルでは顧客も品質に対して同等の責任を持ち、提供したソリューションやサービスを顧客がチェックした上で、承認するという流れです。日本では完璧なものを提供しなければ顧客からのクレームに至りますが、グローバルでは顧客とベンダーが共同で開発・実装を行うパートナーとしての関係があり、顧客も同等にチェックを行います。もっとも、Salmanが言及したように、やはり事業活動においても日本とグローバル、どちらが優れているかは一概には言えず、顧客や市場、要件によって異なると思います。
日立におけるDSSセクターの品質保証活動において、日本とグローバルの違いを克服するために行っている独自の活動はありますか?
Hanjagi
日立のDSSセクターは、2015年から品質保証活動におけるグローバル化に本格的に着手しました。最初の取り組みはグローバルQAネットワークの構築で、異なるグループ会社の品質保証部門をつなぎ、文化や働き方の違いを理解することで、日立の品質マインドセットへの認識を高めることに重点を置きました。これによりグループ会社間の関係が築かれ、さらなる活動のステップに進めました。
次に、グローバルQAネットワークの一環として主要グループ会社で「QAワークストリーム」が組織され、日本とグローバルの品質保証部門のチームが毎月集まり、プロジェクトの進行状況や新しい取り組みの共有をはじめました。
さらに、2022年からは、グローバル品質マネジメントシステム(GQMS)の構築に着手しました。これは、DSSセクターおよび各グループ会社のプロセスを調査し、ベストプラクティスを組み合わせて組織レベルのプロセスを作成したものに、日立グループの品質保証の考え方を取り入れたものです。 例えば、品質保証組織の独立性や重要事故マネジメント、落穂拾い、仕損費管理などがあります。
最後に、Lumada QAネットワークについても言及します。これは日本でDSSセクターが2018年に始めたもので、IT×OT×プロダクトの融合によるデジタル関連知識の獲得を目的としたものであり、現在は日立全体に拡大してグローバル展開を進めています。これはデジタル化を中核に据えるDSSセクターの、日立への大きな貢献だと考えています。
DSSセクターの品質保証活動において、他のITベンダーと比較して差別化や独自のポイントはありますか?
Hanjagi
日立は、IT×OT×プロダクトの領域を持っているという強みがあります。さらに、大規模なIT×OT×プロダクトやAIを含む複雑なシステムを、複数の組織や拠点で協力して顧客に提供するにあたり、GlobalLogicの買収などを通じて成長を続けてきました。日立は高信頼性と厳格さ、そしてアジャイルとスピードの両方を持っていますが、これらの強みを融合し、価値を最大化することが重要です。
このような目的のため、DSSセクターは今後、グローバル品質マネジメントシステム(GQMS)の推進やAI活用を通じて、競争力を高めていきます。
最後に日立が今後事業を発展させていくうえで、品質保証活動のあり方について教えてください。
Salman
今後、AIを最も効果的に活用した企業が勝者になると言われています。AIの活用に関して、日立はIT×OT×プロダクトの知識を組み合わせる強みがあります。なぜなら、生成AIやAI全般において重要なのはビッグデータだからです。ビッグデータに関して言えば、日立はOTとITの両方の既存データを持っており、このようなポートフォリオの融合を持つ企業は非常に少ないと思います。品質保証の観点からも、先ほど述べたように、IT×OT×プロダクトの強みを組み合わせることが重要です。このようにして、会社の成長戦略を支援し、実現することができると考えています。
また、One Hitachiへのシフトについても言及したいと思います。現在始まっているすべての活動、例えばさまざまなワークショップや部門横断などの取り組みを通じて、全社で連携して組織間の距離を縮めることは、One Hitachiの文化を形成するのに役立つと思います。
西村
品質保証に携わる立場として、日立の今後の発展という観点で申し上げたいのが、品質不良のコストは企業の利益率に影響を与えるということです。品質保証と品質コミュニティは、ものづくり部門と連携することで、品質不良の影響やコストを削減する重要な役割を果たしており、これらを通じて会社の成長戦略に間接的に貢献できます。収益の底上げを確保しなければ、コストを継続的に抑えることは難しいでしょう。
日立は多くの事業を持っており、長い歴史の中で多様な事業を展開してきましたが、現在は社会インフラなどの社会基盤を支える重要なシステムに明確にシフトしています。この点では、社会全体への影響の大きさという観点から、品質保証はより重要な役割を担います。ゆえに、品質の維持が必要であり、強固な品質管理体制が求められます。
One Hitachiを実現するためには、日立グループが一体となって考え方や技術スキルを共有し、シナジーを生み出すことが重要だと思います。日立には新しい製品やビジネスもあります。私たちのアイデンティティは開拓者精神を育み、高度な技術を用いて製品やサービスなどを生み出し、社会やお客さまに提供することで社会に貢献することです。
Hanjagi
日立のLumada3.0は、IT×OT×プロダクト、AIの複雑性を有し、異なるグループ会社や地域、組織横断に及びます。日立において、市場での差別化と競争力は、日立独自の事業形態と業務の進め方にあると考えています。
日立の事業には、IT×OT×プロダクトの融合という強みがあります。日立がLumada3.0により成長するためには、One Hitachiで地域、文化、技術を超えて連携し、社会やお客さまに価値を提供できることが必要です。そのためには、品質保証チームやプロジェクトマネジメントチーム、セキュリティマネジメントチーム、デリバリーチーム、人財開発などが連携し、高度に統合されたシームレスかつOne Hitachiでのプロセスが必要です。これを実現できるのは、プロセス設計やオーケストレーションの知識を持つチームであり、まさにその役割を担うのが品質保証部門です。私たち品質保証部門は、品質保証だけでなく、プロジェクトマネジメント、セキュリティマネジメント、デリバリーマネジメント、製品管理などの組み合わせで組織に貢献しています。これがまさにグローバル品質マネジメントシステム(GQMS)でめざしていることです。
グローバル品質マネジメントシステム(GQMS)により、日立のアクションを確立できることで、それが市場での差別化要因となり、競争力となると考えています。Lumadaは主にデジタルエンジニアリング、システムインテグレーション、コネクテッドプロダクト、マネージドサービスの四つの柱に基づいており、これは日立が完全なEnd to EndのIT×OT能力を構築し、より成長するために2024中期経営計画において位置付けられたものです。Lumada3.0はクロスセクターでの展開を強化しており、またIT×OT×プロダクトやAIにより価値を提供するには、真のOne Hitachiとして、グループ間のシナジーと融合をより重視する必要があります。
理想的な真のOne Hitachiは、どの日立グループ会社や地域であっても、日立としての顧客体験価値を提供できることが目的です。これが真のOne Hitachiのビジョンであり、まだ道のりは長いですが、着実に進展を遂げていると思います。





