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デジタル空間で進化を遂げたAIは今、「物理世界」へと活躍の場を広げ、社会インフラの在り方を根本から変えようとしている。そのような中で日立は、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」を展開。モビリティーやエネルギー分野が直面する労働力不足など、深刻な課題解決に挑んでいる。本記事では、「CES2026」における日立とNVIDIAのキーパーソンによる対談を通じ、極限の精度が求められる「フィジカルAI」実装の最前線と未来へのロードマップに迫る。

AIの主戦場は、デジタルから「物理世界」に移りつつある。この巨大なパラダイムシフトを前に、社会インフラをどう進化させるべきか。米国で開催された世界有数のテクノロジーイベント「CES2026」のステージで、日立アメリカでCMOを務めるArya Bariraniがその指針を示した。講演の後半で、日立グループ(以下、日立)のパートナー企業であるNVIDIAでロボティクスとエッジAIのVP(バイスプレジデント)を務めるDeepu Talla氏も登壇。Aryaと「フィジカルAIの実装と、それが切り開くインフラ変革の核心」を語り合った。日立が描くインフラ変革の最前線とは?

画像: CES2026 Foundry Session - 日立 × NVIDIA 講演 "Pioneering AI Technologies for the Physical World"【日本語字幕版】 youtu.be

CES2026 Foundry Session - 日立 × NVIDIA 講演 "Pioneering AI Technologies for the Physical World"【日本語字幕版】

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フィジカルAIの実装を阻む4つの「課題」

Arya:物理世界で知覚し、推論し、相互作用し、行動を起こし、ナビゲートする人工知能――フィジカルAIはこう定義されることが多いです。では、フィジカルAIを社会実装する上での「課題」は何か。ここで4つ挙げます。

第一に、リスクの高さです。物理空間で実際にモノが動く以上、AIの判断は人間の安全に直結します。社会インフラを担うため、業界特有の厳しい規制にも配慮が必要です。
第二に、構築の難易度です。複数のシステムが連携するため構造が複雑で、音や振動などのセンサーデータが主役になります。現実では収集しにくい「異常データ」を補うため、仮想空間でのシミュレーションや合成データの活用が極めて重要な役割を果たします。
第三に、資産の寿命です。変圧器や電車は何十年も使用される可能性があり、中にはネットワーク未接続の旧式設備も存在します。こうした古いインフラをいかにAIと連携させるかは大きな課題です。
最後に、信頼性と責任です。AIが提示する情報の正確さや、その判断の根拠を示す「説明可能性」に対して、現場のオペレーターが確信を持てる必要があります。暴走を防ぐ手動の優先操作や、規制当局が求めるトレーサビリティーも厳格に問われます。

フィジカルAIに関する日立の調査では、回答者の約70%がフィジカルAIの実装や最適化に取り組んでおり、約30%が測定可能な成果を得ています。特筆すべきは将来への期待感で、約80%が「フィジカルAIは今後3年間で自社に変革をもたらす」と確信しています。多くの企業が実験段階を乗り越え、確かな手応えをつかみつつあるのです。
こうした市場の要請に応えるため、日立はAIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」を発表しました。HMAXは、以下の4つの柱で構成されます。

(1) データ:膨大なインフラ資産から抽出される現場の“生きた”情報
(2) ドメインナレッジ:エネルギーやモビリティー、産業現場を熟知した知見
(3) AI:NVIDIAの技術をベースとした最高水準のAIテクノロジー
(4) パートナーエコシステム:実装を加速させる強力な連携基盤

画像: HMAX by Hitachiの構成要素

HMAX by Hitachiの構成要素

さまざまな領域におけるフィジカルAIの事例

【モビリティー】「走るデータセンター」が鉄道をロボットに変える

Arya:ユースケースについてお話ししましょう。モビリティー領域では、大量輸送へのシフトや持続可能性の向上要請、2035年に向けたインターモーダル輸送(複数手段の乗り継ぎ)の激増といった潮流が押し寄せています。課題にも直面しています。最大の壁は、熟練層の退職に伴う「労働力不足」です。世間では「AIが人間の仕事を奪う」という懸念が支配的ですが、現実はその正反対。インフラを支える人財が足りていません。
この課題に対処するため、日立はNVIDIAの産業用エッジプラットフォームを電車に搭載して、いわば「電車の中にデータセンターを構築する」取り組みを始めました。これにより、「自ら感知し、考え、分析する電車」へと進化させます。事実上のロボットと言えるでしょう。かつて分析に10日間を要した故障検知はリアルタイム化され、メンテナンスのスピードアップと資産寿命の延長につながりました。

画像: 【モビリティー】「走るデータセンター」が鉄道をロボットに変える

【産業】現場の生産性を向上させ、熟練の技をAIで継承

Arya:次に産業の領域です。ここではNVIDIAの「ビデオ検索および要約技術(VSS:Video Search and Summarization)」を活用しています。現場では、カメラとヘッドセットを装着した作業員をAIがリアルタイムに支援します。危険な動作を警告したり、複雑な手順を音声でガイドしたりするこの仕組みは、すでに生産性を大きく向上させています。バックエンドでは、収集した熟練者の作業データを基に次世代の教育用モデルを構築しました。若手がベテランの知見を直接学べるだけでなく、マニュアルやレポート作成の自動化も可能になっています。

画像: 【産業】現場の生産性を向上させ、熟練の技をAIで継承

【バイオ】100万回のシミュレーションで、医薬品の開発期間を短縮

Arya:バイオ医薬品領域では「バイオリアクター」(培養装置)が鍵を握ります。装置内ではpHや温度など何千もの変数が複雑に絡み合います。日立はこれらのデータをAIに投入して、仮想空間で100万回もの検証を実施。その結果をリアルタイムに装置に適用して、培養のスケールアップ期間を約30%短縮しました。これは、1~3年を要する開発プロセスを1年近く前倒しできるほどのインパクトであり、必要な医薬品をより早く社会へ届けるための大きな力となります。

画像: 【バイオ】100万回のシミュレーションで、医薬品の開発期間を短縮

【エネルギー】送電網への接続リードタイムを改善

Arya:最後はエネルギーの領域です。EVやデータセンターの普及で電力消費量が約40%も急増する中、老朽化した電力インフラの維持は喫緊の課題です。これに対し、AIによる監視と予測分析で稼働率を最大化する取り組みを行っています。あるお客さまの実例では、送電網に新たな発電設備を接続するという難題に取り組んでいます。既存の電力網への影響を確認するためには20~27カ月もの膨大なシミュレーションが必要ですが、日立のソフトウェアとNVIDIAのテクノロジーを融合させた最新AIアルゴリズムを投入したところ、このリードタイムを大幅に短縮することに成功しました。

画像: 【エネルギー】送電網への接続リードタイムを改善

NVIDIAと描くフィジカルAIの核心

Arya:ここで、NVIDIAのDeepu Talla氏をステージにお招きします。NVIDIAのエッジコンピューティングとソフトウェア群こそが、これまで紹介した全てのユースケースを可能にした不可欠な要素です。NVIDIAは、このフィジカルAIの世界をどう捉えていますか?

Deepu:フィジカルAIの核心は「精度への要求水準」です。物理世界での稼働には極めて高い信頼性が求められます。私たちはこれを、99%の小数点以下に「9」が幾つ続くのかを意味する「ナイン」という指標で表現していますが、そのハードルは驚異的です。この難題を解くために、NVIDIAは「3つのコンピュータ」が必要だと定義しています。モデルを鍛える「トレーニング」、物理世界では不可能なテストを安全・高速に繰り返す「シミュレーション」、そして「実機への展開」です。私たちはこの3つのコンピュータと開発環境を完備し、高度なソリューション構築を支援しています。

Arya:NVIDIAといえばGPUの処理能力が注目されがちですが、その枠を超える広範な技術群に驚かされます。特にシミュレーションやビデオ分析を支えるソフトウェア・エコシステムの充実は目を見張るものがありますね。

Deepu:GPUはエンジンの「核」に過ぎません。フィジカルAIにはセンサーや駆動部との接続、そしてそれらを制御する多層的なソフトウェアが不可欠です。ロボティクス・ソリューションの構築には4つのステップがありますが、最もユニークな第1のステップは「合成データの生成」です。フィジカルAIの領域には、学習に必要な「現実世界のデータ」はほとんど存在しません。YouTubeなどの動画は多少の助けにはなりますが、物理法則を正確に捉え切れず、学習データが不足しています。だからこそ合成データの生成によってデータを自ら創り出すことが起点となります。
その後、第2の「トレーニング」、第3の仮想空間での「シミュレーション」による検証を経て、最終的な第4のステップである現場への「実装」へと進みます。この最終段階では、安全性やセキュリティ、そしてリアルタイム性の確保が絶対条件となります。

Arya:合成データについて深掘りさせてください。それはどのようなもので、モデルのトレーニングやテストの質を高めるための大規模な生成をいかにして可能にしているのでしょうか?

Deepu:学習手法には模倣学習やモーションキャプチャー、動画の活用などがありますが、それだけでは現実の複雑なシナリオを網羅し切れません。そこで私たちが注力しているのが、世界基盤モデル「NVIDIA Cosmos」です。これは生成AIと物理モデリングを融合させ、物理法則にのっとった仮想空間を構築する、合成データ生成の最先端技術です。また、実際のロボットや車両のセンサーが捉えた現実のデータを基に、その環境を仮想空間内に再現して取り込む「ニューラル再構成」という手法も重要です。一度仮想空間に移行すれば、現実の数百万倍というスピードで並列検証が可能になります。

Arya:先ほどのバイオ医薬品の事例でも、シミュレーションは不可欠な要素です。あのような複雑なテストを現実の時間軸で実行していては、いくら時間があっても足りません。十分な量のサンプルデータを取得するために「時間を圧縮する」というプロセスは、開発現場において大きな価値をもたらしています。

Deepu:AIの潮流が「クローズドな汎用モデル」をそのまま使う段階から、各企業が独自の知見を注ぎ込む「自社専用モデル」の構築へとシフトしている点も興味深く見ています。ここで鍵となるのが「オープンモデル」ですね。NVIDIAは、最新モデルの知能の核となる学習済みパラメーター――いわゆる「重み」と呼ばれるものから、スクリプトやデータセットまで100%公開しています。これにより、企業は言語モデルの「Nemotron」やヒューマノイド用の「GR00T」などをベースに特定のドメインに特化したカスタムモデルを自在に構築できます。

Arya:素晴らしいですね。モデルがオープンになることで導入のハードルは大きく下がり、さまざまな企業がAIの恩恵をより迅速に享受できるようになるはずです。1つ質問させてください。「自分たちもフィジカルAI導入に挑戦したい」と考えたとき、ファーストステップは何でしょうか。

Deepu:これからの企業はフィジカルAIやロボティクスとの共働を避けて通ることはできないはずです。自らロボットを製造していない企業であっても、将来的にはロボットを「活用」する立場になります。ファーストステップとして、自社における正確なユースケースを定義し、実務への統合作業に着手しましょう。先進的な企業は、ロボットメーカーでなくともロボティクスを深く理解するためのエンジニアをすでに配置し始めています。最終的には、これらのテクノロジーをいかに既存のワークフローへシームレスに統合できるかが、企業の競争力を左右することになるでしょう。

Arya:Deepu、フィジカルAIの未来への道筋を照らしてくれてありがとうございました。最後に私から。ぜひ、「これからの日立」に注目してください。私たちは、今後AIの社会インフラへの実装に関し、さらに多くの革新的な発表を行っていきたいと考えています。本日は最後までご清聴いただきありがとうございました。

※本記事はCES 2026におけるFoundry Sessionでの日立 × NVIDIAの講演内容を記事化したものです。
※本記事に記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

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画像1: 社会インフラの未来を担う「フィジカルAI」日立×NVIDIAが切り開く実装へのロードマップ 
ー CES2026 Foundry Session レポート

CES2026における日立 x NVIDIAの講演

Foundry Sessionにて日立とNVIDIAが講演を実施。本講演にはHitachi Digital CMOの Arya Barirani と、NVIDIA Edge AI & Robotics VPのDeepu Talla 氏が登壇しました。日立はAIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群 「HMAX by Hitachi」を紹介。列車が自ら状態を判断しリアルタイムで予兆保守を行うなどフィジカルAIを活用した取り組みを紹介しました。

画像2: 社会インフラの未来を担う「フィジカルAI」日立×NVIDIAが切り開く実装へのロードマップ 
ー CES2026 Foundry Session レポート

CES2026でHMAX by Hitachiを披露 - グローバルで社会イノベーションを加速

日立は世界有数のテクノロジーイベントである CES 2026(1月6日〜9日、米国ネバダ州ラスベガスコンベンションセンター)に出展しました。ブースでは、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」をはじめ「ハーモナイズドソサエティ」の実現に向けた革新的なソリューションを紹介しました。

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