米国の電力網は、電力を大量に消費するAIデータセンター、急増する電気自動車(EV)産業、そしてエネルギー転換の重圧にさらされています。鉄道会社は、列車から線路に至るまでの広大な鉄道システムのインフラを改善するために、リアルタイムのインサイトを取得する方法を模索中。また、世界中の工場では、生産性向上やサプライチェーンの効率化に向け、より高度な自律的最適化が求められています。
このように、産業分野とデジタルの世界が急速に融合する中で、個々の技術提供者が産業領域におけるミッションクリティカルな課題を単独で解決することはますます難しくなっています。テック企業は自らのイノベーションには精通している一方で、産業企業は自らの業界や、その業界を支える多様な専門領域、そして現場で何が起きているかについて深い理解を持っています。
しかし、こうした状況における数少ない例外が日立です。産業機器の製造やOTにおける長い歴史に加えて、データ、分析、AIの開発と実装においても数十年にわたる経験を有する日立は、産業とデジタルの双方にまたがる専門知識を備え、交通、エネルギー、製造、ヘルスケアなど幅広い分野でソリューションを提供してきた数少ない企業の一つと言えます。
近年のAIの爆発的成長は、日立グループ各社の連携をより一層強固にすると同時に、NVIDIA や OpenAI をはじめとする最先端 AI 開発企業との外部パートナーシップも戦略的に拡大させてきました。日立は、こうしたパートナー企業の先端技術への投資を通じてエコシステムを広げ、価値創出を加速させています。
この独自の社内外パートナーエコシステムを基盤に、日立はイノベーションを力強く推進し、再生可能エネルギーの最適な配分から、高速で信頼性の高い交通システムの構築、さらには最適化された自律製造に至るまで、顧客が直面する極めて複雑な課題の解決を可能にしています。
偶然ではなく必然的として生まれるシナジー
こうした成果は決して偶然によるものではありません。日立の社内連携戦略であるSynergy Programは、日立のデジタルシステム&サービス(DSS)グループ各社に分散する技術的知見を結集し、業界の枠を超えて顧客課題を解決することを目的とした、戦略的かつ計画的な取り組みです。
このプログラムには、GlobalLogic、Hitachi Digital Services、Hitachi Vantara、Hitachi Cyber、Hitachi Digitalといったデジタル関連会社に加え、モビリティ、エネルギー、コネクティブインダストリーズといったインダストリアル分野の事業も含まれています。これまでも、特定の要請があった際に自然発生的な協業が行われることはありましたが、現在では相互接続性や認知、そしてコラボレーションそのものが、明確な戦略のもとで意図的に設計・推進されています。
「日立ほど幅広い人材とイノベーションの厚みを有している企業は、そう多くありません」と語るのは、Hitachi Digitalでシナジー創出担当バイスプレジデントを務めるRoslynStuart氏です。「私たちの戦略は、そうした専門性とテクノロジーを最大限に活用し、顧客の課題解決とパフォーマンス向上を支援することにあります」
日立グループのいずれかの企業が複雑な顧客課題に直面した際には、Stuart氏とそのチームがエンジニアリングチームと密に連携し、適切な日立デジタル関連パートナーを特定します。必要に応じて外部パートナーも巻き込みながらバーチャルなデリバリーチームを編成します。
これまでのプロジェクトでは、デジタルインフラ、ソフトウェアエンジニアリング、さらにはフィジカルAIまで、それぞれに強みを持つ最大6社の異なる日立グループ企業が一体となって協業した実績もあります。
チーム編成後も、顧客アカウントを担当する会社が引き続きGo-to-Market戦略および業務ドメインに関する主導権を担いながら、シナジーチームは支援に入る日立グループ各社の関与や役割分担、貢献内容を調整し、全体としての最適化を図っていきます。
強みを掛け合わせるパートナー戦略
こうしたグループ会社各社の専門性の融合に加え、日立は外部パートナープログラムを戦略的に拡大し続けています。NVIDIAからOpenAIにいたるまで、幅広い最先端のAI開発企業との幅広い連携を通じて、産業向けソリューションを協創しているのです。
ここ2年だけを見ても、日立はAI、クラウド、データセンター領域において、NVIDIA、Google、Microsoft、AWS、SingTel、そして直近ではOpenAIなど、名だたる企業とのパートナーシップや協業を新たに構築、あるいは強化してきました。
しかし、パートナーリングは単純なものではありません。
「パートナーシップを機能させるのは簡単ではありません。企業の戦略的ビジョンと整合していること、そしてCEOをはじめとするトップダウンの支援が不可欠です」と語るのは、Hitachi Digitalのチーフ・グロース・オフィサー、Frank Antonysamy氏です。
Antonysamy氏によれば、日立の成功の鍵の一つが「360度パートナーシップモデル」にあります。これは、従来の「Sell with(共同販売)」「Sell to(販売先)」「Buy from(調達先)」といった枠組みを超えたアプローチです。日立とパートナーは、単に取引する関係にとどまらず、「Build with(共に構築する)」関係として、共同で知的財産やソリューションを創出します。こうしたパートナーシップは、日立とパートナー双方にとって価値をもたらし、単独では生み出せない成果を実現することを目的としています。
例えば、日立のグループ会社であるGlobalLogicは、GoogleのフラッグシップAIモデル「Gemini」をエンタープライズ顧客に展開する支援を行う一方で、GoogleのAIは日立の「Lumada」ソリューションを支えています。同様に、日立はOpenAIの新しいデータセンター向けに冷却システムやストレージの提供を予定しており、その一方でOpenAIのモデルは日立において成長中のソリューション群である「HMAX」に統合される予定です。
「これらの企業とパートナーリングする際、私たちは相手の製品を利用するだけではありません。パートナー側も日立の製品を活用しています」と語るのは、日立でAIトランスフォーメーションを率いる、バイスプレジデント兼Chief LumadaBusiness Officerの黒川亮氏です。「彼らは日立のエネルギーソリューションや、交通分野のソリューションなどを求めています。従来型のパートナーシップよりも、はるかに共生的な関係です」
変圧器から鉄道、デジタルインフラからエージェントに至るまで、幅広い領域でモノづくりを手がけてきた日立ならではの経験も、こうした連携を後押ししています。パートナーシップの力を誰よりも深く理解している企業の一つである日立。その姿勢は、フィジカルAI市場の中でも急成長を遂げる「インダストリアルAI」の進展とともに、さらに強化されています。
産業界に突きつけられる複雑な難題
複雑な産業課題を解決するには、半導体、AIモデル、業界知見、物理的なアセット、そしてシステム統合力といった多様な能力を結集させる必要があります。しかし、これらすべてを単独で備えている企業は存在しません。
コンサルティング企業は統合スキルを持っていても、実際の列車や変圧器を保有しているわけではありません。一方、半導体メーカーは高い計算処理能力を提供できても、電力網を運用してきた経験はありません。
「IT技術とOT技術を組み合わせると、どうしても複雑になります」と語るのは黒川氏。「多くの産業現場では規制が厳しく、安全性が最優先されます。消費者向けの世界では直面しない課題です。だからこそ、インダストリアルAIには、標準を理解し、システムを統合でき、かつコンプライアンスを満たす信頼できるパートナーが不可欠なのです」
Antonysamy氏もこれに同意します。「この分野の多くの企業に欠けているのは、実際に使われている物理的な設備と、現場に根ざした業界知見です。日立は、現実離れした理想的な相手を探しているわけではありません。なぜなら、これらの複雑な技術と、同様に複雑なビジネスモデルを実際に導入し、検証できる環境が、すでに社内にあるからです。その“カスタマーゼロ”の役割を担っているのが、日立自身なのです。」
「私たちはまず自社の環境でこれらのソリューションを構築し、運用の型(プレイブック)を作り、日立独自の知的財産として体系化したうえで、大規模環境で検証します」と、日立のStuart氏は語ります。「それを経て初めて、外部のお客様に提供するのです」
世界で最も困難な課題を解くためにすべての力を結集する
社内外の連携によってこれだけの推進力を備えた日立は、他社が敬遠しがちな課題にも、十分なスピード感をもって取り組むことができます。
「私たちは現実世界の課題に目を向け、統合されたチーム体制のもとでデジタルおよびAIソリューションの開発を加速させています」と Stuart氏は語ります。「その結果、お客様は研究室の中で止まってしまうPoCではなく、具体的な成果をより早く実感できるのです」
米国の電力系統運用機関であるSouthwestPower Pool(以下、SPP)も、こうした困難な課題に直面していました。SPPは、ノースダコタ州からルイジアナ州まで、14州にまたがる電力網を管理しています。
同組織が抱えていたのは、業界全体に共通する難題でした。新たな電源を送電網に接続するには、現在、18〜27か月にも及ぶ詳細な分析が必要とされています。その結果、全米の現在の発電容量の2倍を超える電源が、接続待ちの状態で滞留しています。
日立はSPPと協業し、さらにNVIDIAとパートナーを組んで、数十年前の需要ではなく、今日の電力網の複雑性を反映したソリューションの構築に取り組んでいます。これには、SPP、NVIDIA、日立それぞれが持つ既存の強みに加え、この規模のデータを扱える新たなソルバーやアルゴリズムの開発が不可欠でした。その基礎研究を進めるため、プロジェクトチームには日立アメリカのR&Dチームの知見も加えられました。
その成果として、日立はSPPにより優れたソリューションを提供し、NVIDIAは、自社製品をさらに進化させるための実環境での検証事例を得ることができました。
日立のパートナーモデルの力は、2024年後半に初期版HMAXを展開した際にも、明確に示されました。このAIプラットフォームは、鉄道車両やインフラに設置されたセンサーを活用し、膨大なデータをエッジでリアルタイムに処理します。
このプロジェクトでは、Hitachi Rail、GlobalLogic、Hitachi Digital Services、そしてNVIDIAによる密な連携が開発を促進させました。革新的な力を持つ企業が集まれば、物事が迅速に進むのは当然のことです。HMAXは、最初の構想段階の会話から、実際の製品ローンチ(2024年9月のInnoTrans)まで、わずか5か月足らずで実現しました。
「日立の目標の一つは、世界が直面する最も喫緊の社会インフラ課題を解決することです」と、Hitachi Digitalに所属するNVIDIAのグローバルアライアンスディレクター、Daniel Knochは語ります。「そうした社会インフラ課題の解決にはフィジカルAIが不可欠だと考えています。NVIDIAとの協業により、私たちはフィジカルAIソリューションの開発を加速させ、実運用へとつなげることができています」
社内連携も同様に重要です。「産業系の事業会社や、GlobalLogicのようなデジタル・AI系の企業と『One Hitachi』として連携できることで、AIエンジニアやアーキテクトを迅速に投入できます」とStuart氏は語ります。彼女とAntonysamy氏は、HMAXの開発を主導した中心人物でもあります。そして彼女は、このプロジェクトは一つのプロバイダー単独では到底支えきれない規模と複雑さを持っていたことも強調しました。
現在、日立はHMAXをさらに進化させ、複数の産業分野にまたがる形へと発展しています。先日、日立はAIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」も発表しました。
初期のHMAXの設計思想を受け継ぎながら、日立およびパートナー各社の先進技術を統合し、エネルギー、モビリティ、製造分野におけるシステムの信頼性と性能を大幅に向上させます。「社内外のパートナーエコシステムによって、私たち自身も気づいていなかった能力が見えてくることがあります」と黒川氏は語ります。「私たち自身の課題を解決していくことで、パートナーのツールは進化し、パートナーの技術によって、私たちのソリューションは加速する。これほど困難な課題を解くためには、それ以外の方法はないのです」
AI Resource Center - Hitachi Digitalへ

Vice President, Synergy Creation, Hitachi Digital
Roslyn Stuart
Hitachi Digital Chief Growth Officer
株式会社 日立製作所
AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット 事業主管 / Vice President AI Strategy /Chief Lumada Business Officer
黒川亮
*こちらはHitachi Digitalの記事を翻訳したものです。





