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AIの新たな時代が、いま幕を開けようとしています。変圧器から交通管理に至るまで、ミッションクリティカルなシステムの開発・導入・自動化のあり方を変革しているインダストリアルAI。本シリーズでは、日立がインダストリアルAIの革新力を、最前線からご紹介します。

金融サービス向けのAIは、レジリエントなシステムと予測可能な成果を実現するために信頼性と責任を設計段階から組み込む必要があります。

金融システムは、一見すると“重要インフラ”には見えないかもしれませんが、金融サービス事業者の資金の流れを管理・統制するツールやシステムは、交通、エネルギー、製造業のミッションクリティカルなシステムと、多くの共通点を持っています。

国のクレジットカードシステムや生命保険プログラム、住宅ローン仲介業において、AIのハルシネーションやモデルドリフトが及ぼす影響を考えてみてください。ECプログラムからトレーディングフロアに至るまで、誤った、あるいは捏造されたデータが送信されれば、消費者だけでなく金融サービス企業そのものにも、取り返しのつかない損害を与える可能性があります。

日立は、金融サービスにおいてAIを正しく活用することの重要性を深く認識しています。オペレーショナルテクノロジーの伝統と、データおよびAIソリューションの開発・導入における数十年の実績を背景に、同社は金融サービスにインダストリアルAIアプローチを適用しています。このアプローチは、日立グループ企業であるGlobalLogicにおいても、見事に具現化されています。

デジタルエンジニアリングとAIに精通するGlobalLogicは、強固な金融サービスおよびコンシューマー事業を展開し、世界の金融サービス企業に対して、信頼性と責任を備えた形でAIのビジョンを現実にしています。

「AIによるハルシネーションやエラーは、金融サービスにおいて深刻な影響を及ぼす可能性があります」と、GlobalLogicの最高技術責任者である Scott Poby氏は語ります。「機械の故障で人身事故が起きるほどではないかもしれませんが、金融の観点から見れば、顧客に重大な影響を与えかねません。トレーディングであれ資産運用であれ、エラーは急速に拡大し、システム停止を余儀なくされることもあります。数千人規模の顧客や、プラットフォーム上で発生する数百万件もの取引を考えれば、その影響は非常に大きいのです。」

効果を発揮するためには、金融サービス業界も、産業分野と同様に、責任があり信頼性の高いAIを設計するアプローチを取る必要があるとPoby氏は語ります。その第一歩は、ROIに焦点を当てた早期評価、パイロットから本番への移行を前提とした姿勢、そしてガバナンスによる信頼ある環境構築です。 

ROIを見据える

金融サービスにおけるAI導入は、まず現状のテクノロジーとAIの活用状況を総合的に評価することから始める必要があります。評価が完了したら、Poby氏は「ROI(投資対効果)の目標を明確にしたうえで、そこから逆算して取り組みを進めるべきだ」と述べています。

「私たちは、パートナーやクライアントの多くがすでにAI分野に投資していることを理解しています。だからこそ、まずその投資が適切なものであったか、そしてそれがビジネス目標と結びついているかを確認したいのです」とPoby氏は語ります。さらに続けて、「企業内にAIのエコシステムが構築されているのであれば、そこから最大の価値を引き出し、適切なユースケースを特定してツールを効果的に活用する方法を検討します。必要であれば、AIのエンドユーザー向けにトレーニングモデルを開発することも考えます」と述べています。

その後、GlobalLogicはプロセスをベンチマークし、企業がAIツールやソリューションをより生産的に活用できる戦略へと移行を進めます。同社は専門家を招き、クライアントのエンジニアをトレーニングしたり、自社チームを管理して既存の投資を最大限に活用できるよう支援し、継続的なフィードバックを提供します。評価からトレーニングまでを通じて、GlobalLogicはクライアントに対し、設定されたROI目標に向けた効率改善を示すことができます。

試験導入の足踏みから本格運用へ

しかし、その段階に到達するには、業界全体で共通する課題を克服する必要があります。多くの企業は、最小限の機能を備えたMVP(Minimum Viable Product)を用いて、新しいPoCを迅速に立ち上げることができます。しかし、こうしたプロジェクトのごく一部しか本番環境に移行できていません。その結果、新しいツールの開発に多額の資金が投じられる一方で、得られるリターンはごくわずかという状況に陥りがちです。

「私たちが見てきたところ、プロジェクトの約80%はパイロット段階を超えることがなく、スケールもしません」とPoby氏は語ります。「その結果、こうした投資は次第に遅れを取り、抜け出せないサイクルに陥ってしまうのです。これこそが、AIにおける最大の投資リスクだと私は考えています。」

いわゆる「MVPの墓場」を防ぐためには、企業は効果的なユースケースを見極め、それをスケールさせることに投資すべきです。リソースを広く分散させるのではなく、成功する事例に集中することが重要です。業界における具体例としては、処方的保全(Prescriptive Maintenance)、車両群のオーケストレーション(FleetOrchestration)、そして電力網の安定性(Grid Stability)などが挙げられます。

「私たちは、設定した目標がが開発者の市場投入までの時間を明確に短縮できるのか、顧客体験を向上させられるのか、あるいはより少人数のチームで同じ業務を遂行し、運用コストを削減できるのかを示す必要があります」とPoby氏は語ります。

とはいえ、それを実現するのは言うほど簡単ではありません。GlobalLogicの依頼により作成された最新レポート『Financial TimesResearch: Code, Capital, and Change – The Engineering Behind FinancialTransformation』によると、回答者の96%が「モダンプラットフォームへの投資は戦略の統合につながる」と認めている一方で、2025~2026年に向けてテクノロジー予算を増やす予定があると答えた企業は半数未満でした。

ガバナンスで築く信頼

同レポートによると、金融サービス業界のリーダーは、AI倫理やガバナンス、さらには安全認証、コンプライアンスの自動化、チェンジマネジメントなどをプロセスの早い段階で組み込む可能性が他業界の2倍高いとされています。これには、人間によるチェックポイントやエンドツーエンドの監査証跡も組み込まれており、AIエージェントが行うすべてのアクションが説明可能で、取り消し可能かつ、コンプライアンスに準拠していることを保証します。

Poby氏は、初期段階でのガバナンス強化がリスク低減とAI駆動型オペレーションへの信頼構築を加速させると指摘します。「AIのワークフローには、チェックポイントや検証ポイントとして人間による介入が必要です」と彼は語ります。「さまざまなエージェント型ワークフローのカタログを構築する際には、『どこまで自動化できるのか』『どの段階でガバナンスのために人間を介入させるべきか』を定義する必要があります。そうすることで、リスクが伴うAIエージェントの意思決定に必ず人間の目が入ることを確保できます。」

すべてを統合する

現代の金融サービスプラットフォームは、信頼・ガバナンス・リスク管理を基盤として構築されています。言い換えれば、スケーラブルな成果と強固なシステムで成功を確実にするため、インダストリアルAIと同様に、金融サービス向けAIも信頼性と責任を初期段階から組み込む必要があります。

「2年ほど前までは、企業はAIを使ってアプリケーションを開発したり、レガシーシステムを変革しようとしていましたが、当時はツールがまだ十分に整っていませんでした」とPoby氏は語ります。「多くの手作業による介入が必要だったのです。しかし現在では、厳格なテストサイクルを経て、ツールを本番環境に導入することに自信を持てるようになっています。」

組織がAIツールの信頼性を確保できれば、リスクを低減できます。「私たちは、これらのプログラムの出力を、AIを使わなかった従来の方法と比較できるようになりました」と彼は続けます。「現在では、AIを活用することでプロセスはより迅速になり、エラーも少なくなっています。」

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執筆者:Scott Poby
Scott Pobyは、GlobalLogic(株式会社日立製作所のグループ会社)の金融サービス&コンシューマービジネス部門の最高技術責任者(CTO)です。GlobalLogicは、世界最大級かつ最も革新的な企業に対し、デザイン、データ、デジタルエンジニアリングの分野で信頼されるパートナーとして活動しています。2000年の創業以来、同社はデジタル革命の最前線に立ち、広く利用されているデジタル製品や体験の創出を支援してきました。

*こちらはCIOの記事を翻訳したものです。

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