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AIの新たな時代が、いま幕を開けようとしています。変圧器から交通管理に至るまで、ミッションクリティカルなシステムの開発・導入・自動化のあり方を変革しているインダストリアルAI。本シリーズでは、日立がインダストリアルAIの革新力を、最前線からご紹介します。

Hitachi VenturesはどのようにしてインダストリアルAIと自動化に注力しているのか。

AIスタートアップの波は決して過大評価ではありません。Crunchbaseのデータによると2025年上半期、AIスタートアップへの世界的な投資額は2,050億ドルを超え、そのうち北米だけで1,450億ドルが調達されました。長期的な事業の持続性については議論があるものの、新たな企業が次々と参入する「終わりなき津波」のような状況に異論を唱える人はいません。推計によれば、世界のAIスタートアップは1万社以上に達し、そのうち米国発の企業が5,000社を超えると見られています。 

こうした活発な動きは、次の大きなブレークスルーを生み出す技術とチームを持つ企業を見極めようとするベンチャーキャピタルに、さらなるプレッシャーを与えています。特に、市場の中でも小規模ながら成長著しいインダストリアルAIに注力する投資グループにとって、そのリスクと期待は一層大きなものとなっています。

従来型のAIが、人事部門向けのチャットボットやマーケティング予測ダッシュボードといった形で導入されるのに対し、インダストリアルAIは、エネルギー、交通、製造、金融、ヘルスケアなどのミッションクリティカルなシステムにモデルや自動化を適用するものです。エンタープライズ向けAIで問題視されるハルシネーション、ドリフト、バイアスといった課題は、インダストリアルAIでは一切許容されません。そのため、この過熱した市場環境で投資先となるスタートアップを選び抜くことは、極めて困難なのです。

「AIスタートアップの熱狂と変動性は、ベンチャーキャピタルにとってまさに完璧な嵐をもたらしています」と、日立の投資部門であるHitachi Venturesの投資責任者、Gayathri Radhakrishnan 氏は語ります。「まず、キャッシュフロー、事業構造、ビジョン、チーム構成、知的財産権など、すべてのスタートアップに共通する多くの懸念事項を適用します。同時に、AIを取り巻く混沌も考慮しなければなりません。そしてその上で、産業的な視点を持ち、『彼らは成功できるのか?』と問う必要があります。」

インダストリアルAI投資の実態

とはいえ、それは言うほど簡単ではありません。AIスタートアップの爆発的な増加は、2010年代初頭のクラウドコンピューティングのハイプサイクルを彷彿とさせる課題を生み出しました。「クラウドが人気になったとき、あらゆる企業が『クラウド企業』だと名乗りました」と Radhakrishnan 氏は語ります。「今では、すべての企業が『AI企業』だと主張しています。私たちは、その雑音を排して、AIが彼らの事業の中核なのか、単なる機能なのかを見極めなければなりません。」

2023年には、ChatGPTのような汎用の基盤モデルに資金が流れ込む中で、AI投資の選定はさらに難しくなりました。「市場は非常に混雑していて、シリーズAのようなアーリーステージの資金調達ラウンドでさえ、かなり高額になっていました」と彼女は言います。

そこで Hitachi Ventures は、過度に飽和していない有望なニッチを探し、さらに日立が強みを持つOT(運用技術)とIT(情報技術)、そしてAIに関する深い専門知識と最も整合する分野に注目しました。その結果、同社は産業や物理環境向けのAIに焦点を定めたのです。

モデリングに独自性を持たせる

初期投資の一つが、Archetype AI Inc.です。このPalo Alto発のスタートアップは、音、振動、温度、圧力などのセンサーから取得したデータを解釈し、物理世界を「認識・理解・推論」できる基盤AIモデルを構築しています。同社の究極の目標は、物理世界全体をコード化すること。それにより、設備の故障予測、産業プロセスの最適化、現実世界のオペレーションを再現するデジタルツインの構築が可能になります。

日立は2023年12月にArchetypeへ投資。スタートアップ設立からわずか7か月後という、ベンチャー投資としては異例の早期段階で行われました。フィジカルAIが主流の投資対象になるよりもはるか前のことです。Archetype AIが限界に挑戦していた事実は、同社を有望であると同時にリスクの高い存在にしました。これは、インダストリアルAI投資家にとってよくあるバランスの取り方です。

「Archetypeの取り組みは、私たちの投資テーマに完全に合致していましたが、当時、同じことをしている企業は他にありませんでした」とRadhakrishnan 氏は語ります。「その点では少し不安もありましたが、私たちは“不安に慣れる”ことにも慣れています。時に、大きな勝者となる投資は前例がないものなのです。」

Hitachi Venturesは、日立を唯一のリミテッドパートナーとするコーポレートベンチャーファンドとして、二つの目的を掲げています。「第一の責任は、確かなリターンを生み出すことです」とRadhakrishnan氏は説明します。「しかし同時に、日立に広範な戦略的優位性をもたらしたいとも考えています。」

そのため、同社が新興技術分野を深く掘り下げることには複数の目的があります。投資機会を見極めるだけでなく、日立全体に市場トレンドを共有する役割も果たしているのです。「スタートアップは、テクノロジーの波を示す早期の指標であることが多い」と彼女は指摘します。「彼らは、遠くに見える未来を照らす灯台のような存在なのです。」

認識を一致させる

Hitachi VenturesによるXaba Inc.への投資は、この二重のアプローチを象徴しています。トロントに拠点を置くこのスタートアップは、ロボット向けの認知制御システムを開発し、機械がリアルタイムで環境に対応できるようにしています。従来のロボットは特定のタスクに合わせて事前にプログラムされており、障害物に遭遇すると停止するか、無理に押し進めるしかありません。XabaのxCognitionテクノロジーは、物理ベースのモデリングとAI学習を組み合わせることで、ロボットが障害物を認識し、自動的に経路を調整できるようにします。言わば、ロボットに「脳」を与える技術です。これにより、ロボットは推論し、適応し、タスクを超えて汎用的に対応できるようになります。

Radhakrishnan氏を納得させたのは、技術だけではありません。Xabaの創業者が持つ深い専門知識も重要な要素でした。「ベンチャーキャピタルは何役もこなす人のような存在ではあるものの、その知識はどれも表面的で深さはそこまでないことが多い。」と彼女は語ります。「しかしXabaの創業者は強固な技術的バックグラウンドに加え、業界知識を兼ね備えており、自分の領域を非常によく理解していました。」

Radhakrishnan氏がxCognitionをHitachi Rail Ltd.の担当者に紹介したところ、その価値はすぐに理解されました。50か国以上で事業を展開するこの日立の子会社は、現在、機関車の表面をサブミリ単位で精密加工するためにXabaのロボットを導入しています。これらの作業は、従来は膨大な手作業を必要としていました。

しかし、Xabaのチームはそこで止まりませんでした。コーディングの世界ではCopilotが話題ですが、XabaはPLCfyと呼ばれるプログラマブルロジックコントローラー(PLC)向けの自動コード生成ツールを開発しました。これは産業オートメーションの民主化を可能にするものです。PLCfyは、既存のPLCに対して、ハードウェアを置き換えることなく、予測制御、異常検知、適応的最適化といった最新機能を追加するAIレイヤーを提供します。

合意形成の裏側

XabaはHitachi Venturesにとって理想的な投資先のように見えますが、同時にインダストリアルAI分野の難しさを示す事例でもあります。実際、当初は投資委員会のパートナー間で「本当に追う価値があるのか」について意見が一致しませんでした。

「時には、合意が得られない案件こそ『何かあるかもしれない』と思うものです」と彼女は語ります。「オンラインで本を売る会社が、世界のコンピューティング需要を再定義するなんて誰が想像したでしょう? あるいは、友人同士をつなぐソーシャルメディア企業が、エンタープライズのストレージ購買行動に影響を与えるなんて。もしAIスタートアップのインパクトが誰にでも明らかなものであるならな、それはおそらく次のGoogleやAmazon、Facebookへ投資しているとは言えないのです。」

Gayathri Radhakrishnan氏は、Hitachi Venturesの投資責任者です。同社は10億ドル超の運用資産(AUM)を有し、コーポレートベンチャーの新たな基準を打ち立てています。世界を変革しようとする意欲的な起業家に対し、パートナーシップとアクセスを提供することで、その挑戦を後押ししています。先進的なAIやロボティクスから、持続可能なエネルギーソリューション、さらにはその先の領域まで、Hitachi Venturesは現状を打破し、大きな夢を描く企業への投資に可能性を見出しています。同社の専門知識に加え、日立のグローバルなリソースとイノベーションへのコミットメントが組み合わさることで、将来のテクノロジーを形づくり、社会に大きなインパクトをもたらす可能性を秘めた有望なスタートアップを見極め、育成することが可能になります。

画像: Gayathri Radhakrishnan

Gayathri Radhakrishnan

*こちらはCIOの記事を翻訳したものです。

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