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 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科 酒井崇匡教授の「酒井研」と、日立製作所は、日用品、医薬品など人に触れる素材において再資源化可能な完全循環型*1バイオアダプティブ材料*2の開発に、日立のマテリアルズ・インフォマティクス*3(MI)向け人工知能(AI)技術を適用する協創を開始した。
 我々の生活は、バイオアダプティブ材料など高分子材料で溢れており、その利便性と安定性、そして優れた物性から、さまざまな自然環境や、生体環境で利用されている。本協創では、酒井研が有するバイオアダプティブ材料に関するノウハウと実験データに、日立が有するMI向け独自AI技術*4を掛け合わせて、生体適合性*5情報を含むバイオ・高分子*6のデータベースを強化し、構築されたビッグデータを活用することで、バイオマテリアル創出の手法確立をめざす。
 今後、酒井研は、人と地球に優しいバイオアダプティブ材料の開発を進め、環境中で速やかに分解されることや、アレルギー反応を起こさないことなどの特性を有した新しいバイオマテリアルの基礎開発を推進。日立は本協創で培ったノウハウをLumada*7ソリューションとして提供している「材料開発ソリューション*8」へ適用することで、バイオ素材を扱うお客さまの製品の高付加価値化に貢献する。両者は、データ駆動によるバイオマテリアル創出に向けた産学連携を推進し、バイオアダプティブ材料を通じて人々のQoL向上と持続可能な社会の実現をめざす。

*1 持続可能な形で資源を有効利用するために、材料を高品質に再資源化すること
*2 生体環境に適応して、生体と材料の反応を通して機能を発揮する、日用品・医薬品など人に触れるものに活用される材料。
 高分子材料の一種出典:(2018)科学技術振興機構(JST)
*3 蓄積したシミュレーションデータや実験データを分析し、材料の構造と性能の相関関係を迅速に見出すことで新材料や製品の研究開発を促進する
 ための手法。従来、研究者の経験と鋭い直感に依存していた材料探索において、多様な材料データをAIなどを活用して分析するMIの適用により、
 時間とコストを大幅に削減することが期待されている
*4 下記技術を参照
  https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/06/0628.html
  https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/12/1216.html
*5 材料を生体内に使用した際に、材料が生体に優しく、副作用など有害な影響を与えず、生体からも生体環境の影響を受けずに良くなじむ性質のこと
*6 タンパク質など分子量が10,000を超える物質を高分子化合物(=高分子材料)といい、その中でも生体環境に適応するものを示す
*7 お客さまのデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立のデジタル技術を活用した
 ソリューション・サービス・テクノロジーの総称
  https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/  
*8 材料開発ソリューション : MIによるお客さまの新材料の開発を支援するサービス

協創の概要

 持続可能な社会の実現に向け、大量生産・大量消費・大量廃棄といったリニアエコノミーから、廃棄や汚染という概念のないサーキュラーエコノミーへ移行する取り組みが重要だ。
 現在、社会実装されている合成高分子*9では、アレルギー反応など予期せぬ生体反応を引き起こす可能性や、再生医療の足場材料*10や薬物送達技術*11などの最先端医療分野で既存の合成高分子の機能不足による社会実装の妨げが課題である。また、化粧品開発での動物実験を禁止する国際的な流れ*12を受け、動物実験に代わる効果的な材料開発手段が模索されている。
 こうした背景を受け、酒井研では、医薬品や化粧品・食品などにも利用可能な、既存材料の代わりとなる安全な*13バイオアダプティブ材料を迅速に開発するため、生体分子であるタンパク質を用いたデータ駆動による計画的な材料創出が必要である。
 しかし、バイオアダプティブ材料をはじめとする合成高分子は、従来のMI技術では分析に必要なバイオ・高分子のデータが揃っておらず、材料開発の手法が確立されていない。
 そこで、酒井研と日立は、酒井研が有するバイオアダプティブ材料に関するノウハウと実験データに、日立が有するMI向け独自AI技術とを掛け合わせて、データ駆動によるバイオマテリアル創出の手法確立に向けた協創を開始する。なお、本協創は、日立が掲げるデジタル活用によるサーキュラーエコノミー実現の中で「バイオコンバージョン*14」に資する取り組みである。

*9 分子量が10,000を超える物質を高分子化合物(=高分子材料)といい、その中でも人工的に合成されたものを合成高分子という
*10 再生医療などで、細胞が自身で細胞外基質を作れるようになるまで、細胞の増殖と分化を制御し、体内の周辺環境と適合させるための基材
*11 薬効を高め、副作用を最小限に抑えつつ望ましい治療効果を得るために、体内の標的部位に薬物を輸送するための技術
*12 "Health Canada Announces the End of Cosmetic Animal Testing in Canada" 2023年6月27日 カナダ保健省発表
  例えば、カナダにおいては、動物の苦痛を減らし守るため、化粧品の動物実験、及び動物実験のデータを使った製品の販売が禁止されている
*13 生体内で過剰反応を示さず、細胞の生着と増殖を制御でき、海洋環境で容易に無毒可能なもの
*14 生物の代謝機能を利用して安価な物質を付加価値の高い物質に変換すること 

協創で実現すること

  本協創では、酒井研にてこれまでに合成・評価したアミノ酸の重合体であるタンパク質の実験データに対し、日立のMI向け独自AI技術を用いて分析することにより、高性能なタンパク質を材料用途にあわせて設計・開発することをめざす。酒井研では、数あるタンパク質の中から、有望な約20,000種のタンパク質を選定し、生体適合性を予想するうえで重要な水溶性などの指標について、実験や理論計算(分子動力学シミュレーション*15)を進めてきた。この過程で蓄積してきたデータにオミクス情報*16を付け加え、生体適合性情報を含むバイオ・高分子のデータベースを構築することで、ビッグデータ駆動によるバイオアダプティブ材料開発を推進する。
 日立は、主に化学分野において、実験データに基づいて高性能材料の化学式を分析・発案するMI向け独自AIの開発に取り組んだ。本協創では、日立は化学式のかわりにアミノ酸配列を分析するMI向け独自AIを提供することで、実験で性能評価するに値する最適な実験候補の材料を提示。酒井研は、提示された情報に基づいて実験計画を更新し、実験を進めることでバイオアダプティブ材料の開発を加速する。これらの取り組みを通じ、両者はデータ駆動に基づくバイオマテリアル開発の手法確立をめざす。

*15 原子・分子の動きをコンピュータ上で再現することを目的とした解析手法
*16 生体中に存在する分子全体を網羅的にまとめた情報のこと

東京大学大学院工学系研究科・酒井研究室について

 東京大学大学院工学系研究科は、1886年に帝国大学工科大学として誕生して以来、時代とともに変化する社会の要請に応えるため、常にダイナミックに変化してきた。工学系研究科は18 専攻、13附属施設で構成されており、科学技術の未来を支える工学の教育とともに、研究面では、基礎的な研究を重視すると同時に、既成の工学の枠組みを取り払い、新しい地平を開拓する取り組みを積極的に推進。

 酒井研究室では、高分子科学を基盤として材料の構造・物性評価を行い、それに基づいて新・高機能を有する次世代バイオマテリアルの創成をめざす。

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