今回は、駅係員・乗務員による車いすや白杖などのお客さまを対象とした、列車乗降サポート業務をトータルで支援する移動制約者ご案内業務支援サービスについて、事業をけん引する日立の肥田拓也さんに話を聞きました。
デジタルを活用しお客さまの“移動の安全”と、駅係員の“心理的安全”をつくる
「移動制約者ご案内業務支援サービス(本サービス)について教えてください」
みなさんも一度は目にしたことがあると思いますが、車いすや白杖を利用するお客さまが列車を乗り降りする際、駅係員がサポートしています。お客さまが何時にどの駅から乗り、どの駅で降りるのか、また、何号車の何番ドアから降りるのかという情報は、従来は電話や口頭伝達、紙の連絡票などのアナログな方法で対応していました。しかし、こうした方法ではどうしてもヒューマンエラーが発生してしまったり、駅係員の業務効率が良くなかったり、さらには「情報が誤っていたらどうしよう」という心理的な負担にもつながってしまいます。このような課題を受け、車いすや白杖利用のお客さまからの介助受付から駅係員間の連絡・引き継ぎ、実績管理といった列車乗降サポート業務のプロセスをスマートデバイス上で完結できるシステムを、西武鉄道との協創活動を通じて2017年に開発しました。車いすや白杖のお客さまの移動の安全につながるだけでなく、駅係員が「このサービスを使っていれば情報がしっかり伝達されているから大丈夫だ」と感じることができるため心理的負荷の軽減にもつながります。これはこのシステムの最大のメリットだと感じています。
さらに近年、公共交通事業者などにおけるソフト対策の取り組み強化を求める改正バリアフリー法*1の施行や、民間事業者に対して障がい者への合理的配慮の提供を義務付ける改正障がい者差別解消法*2の施行など、各種法整備が進められています。何か打ち手が必要だと課題感を感じる鉄道事業者もますます増えており、初めは顧客ごとに個別で開発・導入するシステムでしたが、より多くの顧客ニーズに応えるために2022年にサービス事業化し、本サービスの提供を開始しました。
*1 【国土交通省】バリアフリー法の改正について
*2 【内閣府】改正障害者差別解消法の施行
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移動制約者ご案内業務支援サービスの事業を担当する、肥田拓也さん
導入のしやすさ、使いやすさを追求し、サービス事業として展開を広げる
「サービス事業化によるメリットは何ですか?」
システムをSaaS化しクラウド環境で提供することで、どの鉄道事業者の業務にも適合しやすく、さらに初期導入コストも抑えることができます。各社に個別でシステムやサービスを作っていくことが求められる場合もありますが、共通化できる部分と個別に顧客に寄り添う部分を上手く混ぜ合わせることで、より多くの鉄道事業者にサービスの価値を届けられると考えています。
私は本サービスに関わる前から、別のサービスの事業化に関わっていましたので、事業計画、商品開発、販売計画、お客さまとの協創推進といった、サービス事業特有のノウハウや知識を持っていました。本サービスの提供開始当時はまだ担当をしていませんでしたが、事業化を担当したメンバーからのバトンを受け継ぎ、これまでのノウハウを生かしながらさらに多くの鉄道事業者に広げていくところの取りまとめを担当しています。鉄道事業者同士での口コミや、これまでの実績による評価から、多くのお客さまから引き合いをいただいていて、今では全国8事業者に導入いただいています(2024年2月時点)。
「本サービスの提供開始後、さまざまな機能アップデート*3をしていると聞いていますが、どのような内容ですか?」
本サービスは2017年の開発当時からも一貫して、駅係員にとって“いかに使いやすいか”にこだわっています。簡単な入力方法と親しみやすいUIなどが評価され、2017年度のグッドデザイン賞*4も受賞しました。その後も鉄道事業者にヒアリングしながら、駅係員や乗務員がより使いやすいサービスをめざし機能アップデートをしています。
*3 ニュースリリース(2024年8月8日発表)
*4 GOOD DESIGN AWARD 2017 ご案内業務支援サービス
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本サービスと各種オプション機能のイメージ図
2024年8月に追加した乗車位置検知オプションはまさにその視点で開発しました。これは、降車駅係員のホーム待機場所の間違いを防止するため、ICタグを使うことで正確な乗降ドア位置を登録できる機能です。また、降車駅側でも同様に、正しい位置で待機しているかどうかの確認が容易になる待機位置誤り防止オプションも追加し、ヒューマンエラーの発生防止をさらに強化しました。
もう一つの視点で大事なことは、介助を希望するお客さまにとっての使いやすさです。お客さまの視点では、介助の依頼を毎回口頭で駅改札で伝えたり、通勤・通学などで繰り返し同じ経路の電車を利用したりする場合に負担を感じられます。そこで、お客さまからの介助依頼の受付を、Webサイト上でご利用前日以前でも受付できる事前受付オプションを追加しました。これにより、お客さまの待ち時間も少なくなり、当日のスムーズな案内が可能になりました。
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サービスプラットフォーマーの日立だからこそできる、事業者と事業者をつなぐ“ハブ”になることによる新たな価値
「本サービスについて、どのような点に日立が期待されていると感じますか?」
日立が事業者同士のハブとなることだと思います。都市圏で特に多い相互直通運転の列車の場合、従来のアナログ作業が部分的に残存してしまい駅係員にとっても業務効率や心理的不安につながってしまうだけでなく、介助を希望されるお客さまにとっても事業者ごとに介助の申請をする必要があるなど、利便性に課題がありました。そこで、相互直通運転連携オプションと乗り換え連携オプションを追加し、駅係員が相互直通運転先路線の駅や乗り換え先の駅の事業者に確実かつスムーズな情報伝達が行えるようにしました。これは本サービスを事業展開するサービスプラットフォーマーである日立だからこそできることであり、鉄道事業者からも期待が大きい部分だと感じています。
また、こうしたニーズは駅と駅だけでなく、駅と空港においても同様です。そこで、すでに同じ考え方で取り組まれているANAと、羽田空港と成田空港につながる鉄道路線を持つ京浜急行電鉄と京成電鉄と共同でUniversal MaaS実証実験*5にも取り組んでいます。空港とホテルやバス・タクシーをつなぐ“ハブ”はANAがすでに取り組まれていますので、日立は駅と空港をつなぐ“ハブ”となり、それぞれが協力し合うことで、結果的に駅係員や介助を利用するお客さまの利便性向上、安全の確保を実現できると考えています。
*5 ニュースリリース(2025年2月18日発表)
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移動制約者ご案内業務支援サービスをハブとする事業者間の連携イメージ ※画像ははめ込み画像です
Digital for all. 日立がデジタルの力でめざす未来
「日立は"Digital for all."を掲げ、デジタルの力で人々の快適で豊かな暮らしと、持続可能な地球環境の両立をめざしています。肥田さんはデジタルの力でどんな未来をめざしていますか?」
移動に制約のあるお客さまだけでなく、誰もが安心して鉄道や乗り物に乗れる社会を裏側で支えていきたいです。本サービスの事業を担当していて思うのは、デジタルは“人にはつくれない安心”をつくるものだということです。そのために新たな機能を追加したり他の事業者と協力することで、結果的に鉄道事業者や鉄道を利用するお客さまが嬉しくなると考えています。また、誰もが安心して乗り物を利用したいというニーズは、特定の地域やエリアの課題ではなく、地方のローカルなエリアや海外でも同じことです。その土地によって鉄道がどれほど発展しているかは異なりますが、より広くあまねく本サービスを広げていきたいです。
ただ、デジタルがないと社会は変わらないと思う一方で、デジタルだけでは社会は変わりません。デジタルは、人と人のつながりをつくり、社会の発展を次の世代につないでいくものだと思います。本サービス事業は自分一人ではできない、チームのメンバーや事業に関わる仲間がいてこそできることです。先ほどお話ししたような社会の実現は2~3年でできるような話ではありません。一定期間で終わらせるのではなく、次のリーダーにバトンを渡していかなければいけないと考えています。私も本サービスの事業には後から加わりましたので、バトンを受け取った立場にあります。この受け取ったバトンは業務の引継ぎだけではなく未来の社会をより良くしたいという想いが詰まっています。私もチームメンバーも本サービスの事業は本当にやりがいがあると感じていて、この想いを次につないでいきたいです。誰もが安心して乗り物に乗れる社会へ、本サービス事業に関わるみんなでその実現をめざしていきたいです。
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