このワークショップでは、観光産業をテーマに、下関市が持つ地域資産の整理、他地域での類似の取り組みに関する学習、日立グループが持つデジタル技術の活用などを総合的に議論し、地域創生につながる新規ビジネス案を検討するものです。昨年度に山口FG、下関市、そして日立グループが参画して第1回目が実施され、本年度はさらにJR西日本が加わり、これら4つの組織の社員・職員が、上記期間中の全6回のワークショップに参加しました。
そして、最終回となる1月15日には、山口FGの椋梨社長、前田下関市長、JR西日本広島支社の広岡支社長、日立中国支社の浅倉副支社長、さらには地元メディア出席のもと、下関市内の山口FG本店にて最終成果発表会が開催されました。
代表者からの挨拶
最終発表会では、冒頭で椋梨社長から、発表終了後に前田市長、広岡支社長、浅倉副支社長からそれぞれ挨拶が執り行われました。
椋梨社長からは、「所属の枠を超え、官民が一体となって地域課題の解決策立案に取り組むことは、1者単独では解決しえない「地域課題解決の糸口」となる可能性があることに加え、他の組織の優れた人財との越境学習により、「地域の将来を担っていく人財の育成」にもつながる。今回の研修における過程で学んだことや培った人脈を活用し、引き続き、共に持続可能な地域の発展に向け、志を高く持ち取り組んでいただきたい」。
また、発表終了後の前田市長からのコメントは「今回の取り組みは、複数の企業から構成された、いわばコンソーシアム。普段の市としての仕事に近いような感覚があった。市だけではリソースに限りがあるので、このように民間のリソースとも連携し、課題解決に取り組めるようにしたい。このような取り組みを、ぜひ今後何年も続けられればと思う」。
広岡支社長からは「JR西日本は今回から参画させていただいたが、このような有意義な場に加われたことを、大変ありがたく感じる。今回の一連の研修や最終発表会を通じて、あらゆる課題が出てきたが、下関市を元気にできるように貢献していきたいので、ぜひ今後も連携させていただきたい」。
浅倉副支社長からは「通常業務もある中で、これだけのアウトプットを協力して出していただけたのは大変素晴らしいと思う。日立としても、この研修にクローズするのではなく、多様なステークホルダーの方々と連携し、地域課題の解決につなげていきたい」と、それぞれコメントがありました。
山口FG 椋梨社長

下関市 前田市長

JR西日本 広島支社 広岡支社長

日立製作所 中国支社 浅倉副支社長
各チームからの発表内容
合計26名の参加者は、山口FG・下関市・JR西日本・日立グループからの混合で、計5チームに分かれ、以下の通り発表を行いました。4者の関係者による審査のもと、最優秀チームを選定。その結果、Dチームが大賞に輝き、表彰を受けました。

<Aチーム>テーマ:次世代銀行アプリ “Roof”

少子高齢化の進展、都市部への人口流出、ネットビジネスの拡大などにより、地方を循環するはずの人財、資金が域外に流出することにより、地域経済の衰退が懸念されている。このような地域課題の解決のため、金融機関による地域全体のDX推進を通じ、地域経済の拡大をめざすことが重要になっている。そのための手段として、次世代銀行アプリ「Roof」を提供し、単純に銀行アプリとしての機能だけでなく、行政サービスやMaaS *1 サービス、さらには地域の方々の子育てや健康維持、キャリアプランを支援することで、地域での安定的な生活を支援する基盤としたい。それによって、地域内のアセットを結集し、地域全体でのサービス提供、消費につなげ、地域内の経済循環を促し、豊かな街の創出につなげていく。
*1 MaaS : Mobility as a Serviceの略。デジタル技術の活用により、さまざまな交通手段による移動を一つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ移動の概念。
<Bチーム>テーマ:女性地域デジタルクリエイター活躍事業

下関市を魅力的な観光地であることを発信するにあたって、現状はその発信の担い手が少ないという課題がある。実際、下関市の公式Instagramアカウントのフォロワー数は約1万人と、近隣の福岡市の約6.6万人、北九州市の約2.3万人に比べると少ないため、下関の魅力が十分に届いているとはいえない状況にある。そのため、育児中などにより仕事から離れているが勤労意欲のある女性をターゲットとし、デジタルクリエイター人財として育成することで、下関市の魅力発信業務という形で、SNSを活用して下関の魅力を発信させる。
これにより、各個人が発信源となり新たな魅力発信につながるほか、情報通信業者の少ない下関市においてPRやデジタル関連の業務の担い手が確保できること、さらにこれまで市外に外注していた業務を下関市内で担うことで、下関市内で経済循環を作ることができるというメリットが生まれる。
<Cチーム>テーマ:豊北をツナグみんなの学生寮

豊北町では人口減少と高齢化という課題以外にも、それに起因する空き家・空き公営住宅の増加、そして地域唯一の高校が生徒数の減少という問題に直面している。その両方の問題を解決するために、空き公営住宅を地域住民が学生寮として運営し、地域外から高校に通う学生を呼び込むことで、地域の活性化につなげていく。「衣」「食」「住」「心」の4つのポイントで地域住民が寮に住む学生たちをサポートし、将来的には豊北町に若者が定着し、その数を増やすことをめざす。
<Dチーム>テーマ:~廃校を利用したシェア型社員寮~ しもまちビレッジ

下関市では、現在生産年齢人口は減少傾向にあり、2025年から2045年にかけて約4万人が減少するという試算もある。このため、企業は事業が好調であっても人手不足により倒産の危機に直面するという時代が到来する可能性があり、特に中小企業でより深刻な課題となることが予想される。そのためには、人財確保はもちろんのこと、採用後も従業員が定着し、かつ教育施策を充実させる環境づくりが重要になる。
しかし、中小企業ではそういった環境整備にリソースを投入する余裕がないことから、廃校を利用したシェア型社員寮を作ることで、異なる中小企業に勤務する若者同士の接点が生まれ「社外同期」意識を醸成させ、かつ社員教育も入寮者を対象に行うことで、離職防止と効率的な人財育成が実現できる。これにより、中小企業の従業員定着による持続性の確保に貢献していく。
<Eチーム>テーマ:~もっと深く!「長府の魅力」~ 城下町長府まるごとテーマパーク化プロジェクト

下関市の東部に位置する長府は、江戸時代から続く土壁や石垣が続く「古江小路」や、上級藩士の暮らしを見ることができる「長府藩侍屋敷長屋」、そして「長府毛利邸」など複数の観光資源があるにもかかわらず、認知度、来訪率がともに低いという課題を抱えている。下関市近辺では、唐戸市場や角島、巌流島といった有名観光地と比較すると知名度が低いため、その魅力を発信し、最終的には長府の「まるごとテーマパーク化」を進めていく。体験型サービスで長府への長期滞在を図るべく、既存施設や古民家を活用した宿泊施設を充実させることで、歴史ロマンあふれる長府の魅力をフル活用させていきたい。
日立グループ参加者インタビュー
最終発表会終了後、日立グループの参加者計6名にインタビューを行いました。今回、日立製作所からは4名、日立システムズから2名が参加。準備段階から最終発表会までの苦労と、発表会という大一番を終えた直後の心境を語っていただきました。
<Aチーム>
日立製作所 中国支社 金融システム営業部
大道 健太(だいどう けんた)

私は今回の日立グループからは唯一、昨年の研修に引き続いて2回目の参加者です。前回は大賞を逃したので、今回こそはと思っていたのですが、残念ながらリベンジとはなりませんでした。
今回は前回と異なり、インプット中心からアウトプット中心に変わったことで、プレゼンテーションの機会が多く、チームで地域課題を解決するためのコミュニケーションが重要であったと感じました。
前回の研修では観光に関するビジネスプランを提案しましたが、今回は自分の本業に近い金融機関へのDX導入というところに焦点を当てました。そういった意味では、チームメンバーには申し訳ない気持ちはありつつも、自分の興味や実業に結びつく内容を追求した結果、実際の顧客との関係構築にも応用できるという気付きを得られたのは収穫だったと感じています。反省点としては、ディスカッションの時間が足りなかった点かなと思っています。
今回のわれわれのチームの提案は決して不可能だとは思っていませんが、大事なのは夢物語に終わらせず、現実的な視点を持つことですので、地域の課題解決に向けて、既存のサービスやアプリを組み合わせることで、実現可能性を高める提案ができたと考えています。
日立システムズ 中国支社 第一営業部
大塚 智晴(おおつか ともはる)
今日の発表にあたり、苦労も当然多かったのですが、同時に得られたものが多くあったと感じています。私自身は営業職ですが、研修を通じて異なる職種の参加者と意見を交わしたことで、結論の着地点を見つけることが営業活動にも役立つのではないかと感じました。グループのメンバーは、下関市や広島に住んでいたりと、それぞれ居住地が離れているため、実際に集まる機会が限られており、研修の5回のセッションでしか顔を合わせられなかったことは、やはり難しいポイントだったと思います。
また、他の参加者との交流を通じて、異なる視点に気づかされたことも重要な学びでした。特に、収益性や予算に関する視点は、自分にはなかったものであり、他の業種の参加者の意見に触れられたことは、非常に勉強になったと感じています。今後は、これらの視点を業務に活かし、より実現可能な提案を行うことの重要性に気づかされたのは、大きな収穫だと認識しています。
<Bチーム>
日立製作所 中国支社 岡山支店 金融システムグループ
岡野 正寛(おかの まさひろ)

本研修を通じて特に苦労したのは、異なる会社のメンバーと意見をすり合わせることでした。私は普段、金融機関向けの営業を担当しているのですが、日立に利益をもたらすスキームを考える一方で、地域創生というテーマに沿ったバランスを取ることが難しかったと思っています。最終的には、思い描いていたゴールとは異なる形ではあったものの、形にはなったことには満足できたのかなと感じています。
当初のチームとしての目標は、より高度な人財を活用し、補助金を得ることで地域におけるビジネスを拡大することだったため、理想とは少し違った結果になったことは心残りではありました。他方で、私自身はチームの議論の中でSNSを活用するという提案を出したのですが、それが最終的なチーム内の合意形成につながったこともそうですし、地域課題であるIT人財確保にあたってのハードルを下げる良い結果だなと感じています。
ビジネスとして利益をもたらすための道筋を作ることがいかに難しいかということを痛感させられた面もありましたが、地域創生に向けた取り組みの中で得られた経験や学びも多くありましたので、今後の業務に活かしていきたいと思います。
<Cチーム>
日立製作所 研究開発グループ サービスシステムイノベーションセンタ デジタルエコノミー研究部
上原 優衣(うえはら ゆい)

私は現在、社内SIプロセスに関する検討といった、今回の研修のテーマとは関連性の無い分野の研究に携わっているので、そういった意味では学びを得られる機会は多かったです。私は普段の勤務地が下関から遠方のため、現地のフィールドワークこそ参加したものの、やはり地元に住んでいる方々に比べると、研修外の自発的な現地での活動には十分に参加できませんでした。そのため、他のメンバーが聞いてきた現地の声をもとに、地域が抱える課題やその課題解決につながる情報を整理し、類似事例調査や課題解決に向けた議論を進めてきました。インターネットで調べることができる情報とは異なり、自分たちで集めてきた現場の生の声がいかに大事かということを実感できたのは、大きな収穫だったと思っています。
普段の業務で、地域共生に関する研究を行っているメンバーとの接点はあったものの、やはり今回の研修の参加で異なる分野での学びがあったことは新鮮でした。普段はなかなか接点が少ない日立グループ以外のメンバーと一緒に進める中で、コミュニケーションの重要性を再認識したことも大きな気づきだったかなと思います。必要な情報を持つ社外の人との迅速な連携ができることは、普段の社内の関係とは異なる感覚でしたし、またエンドユーザーの視点も意識することで、単に課題を解決するだけでなく、ビジネスチャンスとして捉える重要性も学べました。今回の研修での様々な学びを今後に繋げていきたいと思います。
<Dチーム>
日立製作所 金融ビジネスユニット 金融第一システム事業部 フロント第二部
武智 尚也(たけち なおや)

一連の研修を通じて、私が成長を感じた点は、システムエンジニアとしての役割を超えて、顧客と共にビジネスを創り上げる姿勢を持つようになったことだと思います。
入社以来、システムの観点から金融機関をサポートしてきましたが、本ワークショップで「社会課題という視点に立ったビジネス考案」や「それにかける金融機関(山口FG)の想い」に触れたことで、金融機関が実現したい社会やビジネスを念頭に置いたうえで、その実現手段としてシステムを提案することが大切だと感じました。そのため、今後は単なる技術提供ではなく顧客の描く未来を見据えた「ビジネス協創のパートナー」として、提案活動を実施することをより一層意識していきます。
今回、私の所属したDチームは大賞をいただくことができましたが、チームとして重視したのは、実現可能性とワクワク感の二点です。実現可能性の観点からは、収益の流れを明確化することと既存のリソースを活用することを意識し、ワクワク感は「チームメンバーが実現に向けて積極的に行動したいと思えるか」にこだわり検討を重ねました。最終的に、廃校を活用したシェアオフィスのアイデアが生まれましたが、メンバー各々が役割を意識し協力関係を築けていたからこそ、スムーズに進めることができたと感じています。今後も、顧客のニーズを理解し、技術を活用する姿勢を大切にしながら、業務に取り組んでいきたいと思います。
<Eチーム>
日立システムズ 公共・社会営業統括本部 地域ソリューション推進部
谷本 基 (たにもと はじめ)

私のチームのテーマの舞台である長府は、有名観光地である唐戸市場の近くですがフィールドワークを通じて長府には観光資源や隠れた魅力があると分かり、チームテーマの舞台に選びました。しかし、長府の認知度が低い理由や長府を知っていただく方法、来ていただくアイデアについてチームメンバー全員が納得するものを見つけるまでとても苦労しました。また、下関市職員のメンバーが思う予算感や長府住民の思いを考慮しながら、手軽に実現できるものから実施し事業を拡大していく方針で企画を作成しました。
私は関東地方に住んでいるため、研修のタイミングにしか下関市に伺うことができず、他のメンバーに長府の現地調査やヒアリングをお願いせざるを得なかったことに加え、オンライン会議でのやり取りが中心だったため、意見集約や資料作成が大変でしたが、無事に発表を迎えることができました。
顧客のニーズに合った提案をするためには、現地の声を聞き、地域の特徴や課題を把握することの重要性や地域の特徴・課題に合わせたソリューションを提案することの難しさについて本研修を通じて体感し学べたと思っています。