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AIの新たな時代が、いま幕を開けようとしています。変圧器から交通管理に至るまで、ミッションクリティカルなシステムの開発・導入・自動化のあり方を変革しているインダストリアルAI。本シリーズでは、日立がインダストリアルAIの革新力を、最前線からご紹介します。

AIエージェントの急速な普及が進む中で、インダストリアルAI環境における信頼を築く鍵となるのは、観察可能性と説明可能性です。

多くの企業にとってLLM活用による収益向上が依然として難題である中、目的志向の自律機能を備えたエージェント型AIは、ROIを実現するための有力な解決策と見なされるかもしれません。

しかし、そう簡単にはいきません。

確かに、エージェント型AIは急成長を続けており、キャップジェミニは「2028年までに最大4,500億ドルの経済価値を生み出す可能性がある」と試算しています。しかし、企業が生成AI投資から収益を引き出そうとする際に直面するスプロール(無秩序な拡散)やガバナンス、信頼性、そしてモデルドリフトのような技術的問題は、エージェントの導入においても同様に、混乱や障害を引き起こす恐れがあります。

モデルドリフトを例に挙げて考えてみましょう。これは、モデル内の入力変数と出力変数の関係や、使用されるデータそのものが時間の経過とともに変化するという現象です。この問題は、モデル構築というプロセスに本質的に含まれています。なぜなら、モデルをトレーニングする際には一定の前提条件や仮定を置かざるを得ないからです。しかし、現実世界のデータは常に変化し続けるため、こうした仮定や入力データの特性はモデルのライフサイクルの中で自然に崩れていきます。新しいデータが継続的に追加されることで、その影響はさらに大きくなるのです。

LLM上に構築されるAIエージェントにも同様の現象が起こります。これは「創発的挙動(Emergent behavior)」と呼ばれます。LLMが大規模かつ複雑になるとき、または複数のエージェントで構成されたシステムが過度に複雑化すると、エージェントは本来の目的から逸脱し、自動的に予測不能な行動を取ることがあります。

企業がこうした自然発生的で予測不能な変化を監視・調整できない場合、モデルやエージェントは元のパラメータから徐々に「ドリフト」し始め、不正確な結果を出し始めます。その結果、モデル性能の低下から誤った意思決定など、企業が気づかないうちにさまざまな問題が発生します。

この課題は、エネルギー・交通・製造といったミッションクリティカルなインダストリアルAI領域ではさらに深刻です。これらの分野では、信頼性・透明性・観察可能性を備えたAIが求められます。自律型エージェントの誤った行動は、設備損傷や障害発生、さらには人身事故といった壊滅的な結果につながりかねないからです。

こうした状況が、この新興領域に対する深刻な不信を招いています。実際、最近のマッキンゼーの調査によると「完全自律型AIエージェントへの信頼は、1年で43%から27%に低下した。倫理的懸念、透明性の欠如、エージェント機能の理解不足が主要な障壁である」と指摘しています。

いま必要なのは、組織が信頼できるエージェントです。しかし、どうすればそれが実現できるのでしょうか。

信頼を築くための確実な方法

日立は、数十年にわたりデジタルエンジニアリング、マネージドサービス、ソフトウェア、データインフラなど、幅広い領域でインダストリアルAIソリューションを開発・提供してきました。エージェントに関する技術的課題が顧客の間で顕在化し始めた際、同社は信頼性の高いエージェントと、安全かつ堅牢な管理システムを組み合わせるという体系的なアプローチを採用しました。 

その取り組みの出発点となったのが、数年前に開始されたHitachiDigital Servicesの「Hitachi Application ReliabilityCenters(HARC)」です。これは、クラウドベースの業務システムやアプリケーション群をモダナイズし、最適化するために設計されたマネージドサービス型プラットフォームです。

この汎用的なプラットフォームは、クラウドの状況変化に合わせて迅速に新機能やサービスを取り込みながら進化してきました。たとえば今年初めには、産業別の幅広い分野に対応したAIアクセラレータを体系化しHARCに追加。企業がAIの取り組みを迅速に開始できるよう支援しています。

さらに最近ではエージェント問題に対応するため、新たに二つのソリューションを導入しました。拡張した新しいHARC Agents は、テクノロジー、フレームワーク、そして実践的なサービスを融合させ、企業が標準化されたエンタープライズ級のエージェントソリューションを効果的に展開できるよう設計されています。その中核にあるのは、6つの主要領域にわたり200以上のエージェントを体系化したAgent Library と、組織全体のあらゆるエージェント型AIプラットフォームを一元的に管理できる単一ダッシュボードを備えた Agent Management System です。

「人はAIへの依存度が非常に高くなります」と、Hitachi Digital Servicesの最高技術責任者(CTO)でAI部門責任者のPrem Balasubramanian氏は語ります。「時間の経過とともにAIツールへの信頼が増し、重要な業務にまで広範に頼るようになります。しかし課題は、これらのツールが徐々に変動し、創発的挙動が現れ始めるときに生じます。その『ずれ』をどう測定し、どう検知するのか。まさにそこで当社のAgent Management Systemが役割を果たします。」

HARCのAgent Libraryには、機械や車両の故障診断、製造拠点での品質検査、財務業務の支援など、多岐にわたるエージェントが含まれています。中には、会話による音声コマンドでドローンを遠隔操作することもできます。しかし、最も重要なのは、これらのエージェントが長期にわたって信頼性と安全性を維持できるよう、プラットフォームが支援することだとBalasubramanian氏は強調します。

それが可能なのは、これらのエージェントと管理システムが、HARCプラットフォーム内の既存の2つの提供機能と連携しているためです。ひとつは、スケーラブルでエンタープライズ級のAIワークロードの開発と導入を定義するためのフレームワーク「R2O2.ai」。もうひとつは、AIシステムの運用化と最適化を支援する「HARC for AI」です。

観察する力

「特に産業分野においては、単なる管理だけでは信頼は成り立ちません。」とBalasubramanian氏。

「エージェントは信頼性と責任を備えていなければなりません。ヘルスケア分野では、回答が“似ている”だけでは不十分で、常に同じ答えを返す必要があります。ハルシネーションや創発的挙動は許容できません。エージェントが勝手に行動を始めることはあってはならないのです。コストの観点だけでなく、説明可能性や監査可能性の観点からも、エージェントは常に“観察可能”であるべきです。もしエージェントが意思決定や提案、推奨を行ったりするなら、その理由を確認できなければなりません。特に規制産業においてはなおさらです。」

これらは単なる理念ではありません。同社のR2O2.ai の方法論に組み込まれています。R2O2.ai は、Responsible(責任ある)、Reliable(信頼できる)、Observable(観察可能)、Optimal(最適)なAI を意味する略称なのです。

信頼できるエージェントが生み出す迅速な本番移行

責任性・信頼性・観察可能性をエージェントやAIの体系的なアプローチに組み込むことで得られる副次的な効果のひとつが、本番稼働までの時間短縮です。基盤となるAIやエージェント開発が確かなものであると組織が信頼できれば、プロトタイプから本番への厳しい移行プロセスも、より自信を持って前進できるようになります。

「プロトタイピングは比較的容易だということに、人々は気づき始めています」とBalasubramanian氏は語ります。「しかし、本番環境への移行はまったく別の課題です。特に企業向けシステムや産業分野においては、技術者がエージェントを開発できたとしても、ビジネス側は異常や創発的挙動といった問題を管理しなければなりません。実際、エージェントの導入と安全管理策や制御ルールの整備には、全体の労力の70%を占めることもあります。」

こうした課題は、責任性と信頼性を重視したアプローチによって一変します。HARCのAgent LibraryとAgentManagement Systemを組み合わせることで、同社は企業がエージェント型AIシステムを設計・構築・導入・活用するまでの時間を、従来より30%短縮することをめざしています。

Balasubramanian氏は、企業が今問うべき重要な問いを強調します。「現在のAI投資で本当にROIを最大化できているのか?同じ業務フローにエージェント型AIを導入することで、より高い効率と価値を得られるのではないではないか?」

「私のビジョンは、すべての業務フローをエージェント化することです」とBalasubramanian氏は語ります。「エージェント化された業務フローなら、コストもROIも明確です。そこに当社の管理システムが役立ちます。R2O2.aiの意義とは、すべての業務フローにおける“最適なAI”の提供なのです。」

インダストリアルAIにおいては、パイロットから本番への移行、性能の継続的な監視、そしてROIの明確化が、各業界のミッションクリティカルなシステムにとって極めて重要です。特に、エージェント時代の到来においてはなおさらです。

Hitachi Digital ServicesのAIアプローチとHARC Agentsについてはこちらへ

日立の産業分野におけるAIの取り組みについてはこちらへ

画像: Prem Balasubramanian

Prem Balasubramanian

Prem Balasubramanian氏は、Hitachi Digital Servicesの最高技術責任者(CTO)であり、日立製作所のグローバルAIアンバサダーです。

HitachiDigital Servicesは、日立製作所の子会社であり、人とテクノロジーの力でミッションクリティカルなプラットフォームを支えるグローバルシステムインテグレーターです。クラウド、データ、IoT、ERPモダナイゼーションにおけるカスタマイズされたソリューションを提供し、先進的なAIを基盤に、企業が物理システムとデジタルシステムを構築・統合・運用できるよう支援しています。

*こちらはCIOの記事を翻訳したものです。

インダストリアルAI:AIイノベーションの最前線

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