日立独自の「ユーザー確認技術」により正答率を28%向上し、業務効率化や満足度向上をめざす
日立製作所(以下、日立)は、京葉銀行のコールセンター業務におけるサービス強化に向けて、日立独自の技術を活用した生成AIの技術検証(以下、本検証)を2025年5月から9月にかけて実施した。
京葉銀行においては、蓄積したナレッジを基盤としたAIによる自動応答などを導入し、24時間365日、利用客がいつでも質問できる自動応答サービスの構築による、お問い合わせサービスの強化をめざしている。本検証はその実現に向けた取り組みの一環となる。
本検証では、コールセンターのオペレーターが問い合わせに対応する際、回答内容を効果的に作成する日立独自の「ユーザー確認技術」を用いた生成AIを活用し、京葉銀行のWebサイトにおける公開情報に関する問い合わせに対し、生成AIが正しい回答を作成できるかという回答精度を評価した。「ユーザー確認技術」は、問い合わせ内容が不十分な場合でも、必要な情報を確認する質問を自動的に行い生成AIが問い合わせの意図を正しく把握するよう設計されている。これにより、誤った回答を導くハルシネーションのリスクを軽減し、回答精度を向上する可能性を検証した。
通常、RAGにデータを学習させるだけでは十分な正答率ではないことが多く、今回の検証も当初は58%だったが、「ユーザー確認技術」を活用することで、正答率が86%となり28%向上したことを確認した。これを受けて、今後、オペレーターの負荷軽減や業務効率向上に加え、待ち時間の短縮による利用者の満足度向上が期待される。日立は今後、「ユーザー確認技術」を用いた生成AIを金融機関に広く展開することで、コールセンターの人財不足や業務の属人化などの課題解決をめざしていく。
背景
近年、金融機関では、非対面での問い合わせの増加やオペレーターの人財不足により、コールセンターの業務効率化やオペレーターの負荷軽減が求められている。さらに、業務の属人化により、オペレーターのスキル・経験の差によって問い合わせ対応の品質にばらつきがあるという課題もある。これらは、待ち時間の長さや不適切な回答といった利用者の満足度低下につながるため、早急に改善することが不可欠である。また、チャットボットを問い合わせ対応に活用するケースもあるが、大量のFAQを事前に作成する必要があるほか、ユーザーの複雑な言い回しへの対応が難しいという課題があった。
これらに対し、近年はRAGを用いた生成AIを活用することでコールセンター業務の効率化による、回答精度の向上が注目されている。しかし、質問者からの情報が不十分な場合に、誤回答やハルシネーションが発生する懸念があり、こうしたリスクへの対応が求められている。
京葉銀行においては、コールセンターでの利用者からの問い合わせのうち、Webサイトで公開されている情報に関しての問い合わせが相当数を占めており、生成AIの活用によるコールセンター業務の改善や利用者の満足度の向上にあたっては、これらの質問への回答精度の改善が課題となっていた。そのため、日立が「ユーザー確認技術」を適用し、本検証の実施に着手した。
本検証の概要
本検証では、京葉銀行のWebサイト上に公開情報がある質問に対し、生成AIが正しい回答を作成できるか確認することで、回答精度を検証した。検証にあたっては、日立独自の「ユーザー確認技術」を用いた場合において、生成AIによる回答作成の精度が向上するか評価した。
「ユーザー確認技術」は、質問に含まれる情報が不十分な場合、確認質問を途中段階で提示することで、生成AIが質問の意図をより的確に引き出すことが特徴である。その上で、質問者の意図に合った情報をWebサイトから引用し、回答を生成する。例えば、手数料の金額についての質問があった場合、生成AIが「ATM利用手数料」もしくは「振込手数料」など選択肢を提示することで、質問者の意図に沿った適切な回答に誘導する。従来の生成AIでは、情報が少ない場合や曖昧な質問に対しては、ハルシネーションのリスクがあったが、「ユーザー確認技術」により、不足する情報を補完できることから、回答精度の向上が可能となる。
本検証の結果、日立の「ユーザー確認技術」を用いることにより、RAGにデータをWebサイト上の公開情報を学習させたのみの場合と比較して、回答正答率が58%から86%となり、28%の回答精度向上を確認た。これにより、オペレーターが質問者の意図に沿って円滑に回答できるようになったことで、オペレーターの負荷軽減や業務効率化が可能となり、利用者においても待ち時間の短縮による、満足度向上が見込める。
今後の展開
今後、日立は、今回検証した「ユーザー確認技術」を、京葉銀行におけるコールセンターの実業務に適用することをめざし、利用者の待ち時間短縮と対応品質の均質化による、より高品質なサービス提供を支援する。
また、日立は金融機関向けに、「ユーザー確認技術」を用いた生成AIを強化し広く展開することで、Lumada 3.0 を通じてめざす人財不足や業務の属人化などの社会課題解決に加え、業務改善や顧客満足度の向上に貢献する。さらに、今回検証したコールセンターの業務だけではなく、営業や審査業務の支援、システム開発の効率化など金融機関のさまざまな領域に生成AIやAIエージェントを適用し、新たな価値創造を進めていく。



