このワークショップでは、下関市が抱えている課題解決に向けて、下関の観光や教育、子育て、移住者の受け入れなど、計6チームに分かれて約7~8か月かけて、解決策とそれを受けた新規ビジネス案を検討するものです。2023年度に山口FG、下関市、そして日立グループが参画して第1回目が実施され、2024年度はJR西日本が加わり、さらに2025年度は下関市に拠点を置く複数の地元企業なども参画し、これらの組織の社員・職員が、上記期間にわたって自身の業務と並行しながらチームメンバーと施策を検討してきました。
そして、2026年2月10日には、下関市内の山口FG本店にて最終成果発表会が開催されました。

最終発表会には、参加企業・自治体などから計27名が出席し、混合で結成された計6チームに分かれて発表を行いました。
本プログラムでは、過去2 回からの変更点として、地域課題に対し、ビジョン策定から事業化までを実践的に学ぶ構成とするとともに、自走可能な協業モデルの構築を重視し、実現性の高いプランの提案、地域事業者との連携による事業主体の明確化を図りました。
また、下関市内にとどまらず、全国各地への横展開が可能な取り組みであることも要件としました。
審査にあたっては、過去2 回同様、実現可能性や課題解決に向けた道筋も評価対象とし、関係者による審査の結果、B チームが最優秀賞(大賞)に選定され、表彰を受けました。

各チームの発表内容(要旨) ※掲載は発表順
<Aチーム>テーマ:1 mile & 2 hoursを実現する関門“Chill”回廊プロジェクト

下関市は観光資源が多く、魅力も豊富な場所であるが、その強みを十分発揮しているとは言い難い。海響館、唐戸市場、赤間神宮など、充実した観光地を擁する一方で、観光客の平均滞在時間が数時間程度と短く、限られた観光地に集中するために、地域経済への貢献が限定されているという課題がある。また、特に唐戸市場に観光客が滞留することによる混雑が顕在化しており、特に休日は食事を楽しむことができないという点も、解決が急務となっている。
もう少し滞在時間を増やし、観光客にゆったりと下関を満喫してほしい。下関には、他の土地には無い「海峡を眺めながら」のんびりとした時間を過ごすという選択肢があっても良いのではないか。そこで、下関駅から壇之浦までの海岸線に沿って周遊エリアを拡大し、滞在時間を延ばすことはもちろんのこと、新しい楽しみ方を提案する「関門“Chill”回廊プロジェクト」のビジネスとして、太陽光で自走可能なマイクロモビリティのレンタルとともに、折り畳み式の椅子を貸し出し、関門海峡に面した好きな場所、好きな時間にのんびりと椅子に座って過ごしてもらう「チェアリング」の可能性について検討した。
モビリティとチェアリングを組み合わせることにより、これまで限られた地域に滞留していた観光客の流れを広げ、混雑の解消だけでなく、地域の飲食店のテイクアウト利用や、物販店の利用機会が増えるなど、経済効果の範囲を下関市の広い範囲に拡大することが可能になる。あわせて、景色の良い場所に観光客が移動することにより、SNS映えする写真撮影や静かな場所での飲食や読書など、多様な楽しみ方が可能になることで、これまでの下関の魅力だったグルメや歴史だけにとどまらず、「ゆったり・まったり過ごす」という、新しい価値を生み出すことが期待できる。
<Fチーム>テーマ:「保育」から地方と都会を繋ぐ! 下関市まるごとコンシェルジュ

下関市は、海と山の両方があり、かつ市街地と密接している、いわゆるコンパクトな自然都市である。自然と都市が溶け込む街として、地元よりも暮らしやすい「第二の都市」として、二拠点生活者を呼び込むには好条件がそろっている。しかし、下関を二拠点生活の場所に選んでもらうには、特にファミリー世帯において、子育ての環境が充実しているかが重要な要素になる。
そこで、子供が幼いうちは地域の保育園に、そして成長につれて小学校がいわゆる「留学先」として受け入れることで、家族単位での二拠点生活の場所として選ばれる街にしていきたい。さらに、親世代においても、土地勘のない場所においては、保育園や学校のみならず、子供にさまざまな体験をさせることもハードルが高い。休日の家族での過ごし方をどうするかという問題もある。
そこで、地元に精通した「地域コンシェルジュ」を事業として立ち上げることで、このような家族単位で下関での二拠点生活を計画しているファミリー世帯を取り込んでいきたい。
<Eチーム>テーマ:みんなで街をつくって革新するMOTTI

少子高齢化の問題は、下関市も例外ではなく、その影響は地元企業にも及んでいる。特に近年は、人手不足を原因とした倒産が急増している。
AIの発展により、ある程度は人手不足を補えるようにはなったものの、企業側としてはAIに任せられるのは定量的な業務までで、正解のない問いに挑む共創型の仕事は、やはり人間でないと不可能という声が上がっている。さらに、若い担い手が不足することで、地元企業が主導する地域イベントの継続が困難になっているという課題もある。
こうしたことから、地域に長期間定着させるには、卒業した学生が地元企業に就職し、そこで根付くようにすることが重要。しかし、採用時のミスマッチが原因で、せっかく地元企業に就職したにもかかわらず、不本意な離職により、その土地を離れることになってしまうケースも少なくない。
そこで、本チームの提案としては、地元企業と教育機関が連携し、探求授業の参加を起点として学生を地域活動への参加に引き込み、「地域課題解決体験」を積み上げ、リアルな地域課題解決を体感するとともに、その活動参加を通じてAIを活用し、当該学生の「人間力」を可視化する。その結果を就職活動などで活用し、企業と学生のミスマッチを防ぐとともに、地域に人財が根付くことを実現する。
<Dチーム>テーマ:文化回廊都市・長府 静けさと賑わいが共存する、最先端のトカイナカへ

下関からバスで約20分の距離にある長府は、江戸時代からの城下町であり、「古江小路」などの歴史ロマンがあふれる閑静な街。生活圏内に歴史資源がある、下関でも希少な環境にある。しかしながら、近年は空き家や空き店舗が増え、かつての賑わいを失いつつある。他方で、地域内では昔からの閑静な環境を守り続けたいという想いもある。
こうしたことから、域外から静かに生活したい人々を呼び込み、定住者を増やしたい。そのため、長府にワーキングスペースを充実させ、静かさと安心を走る、新しい長府の未来を築いていくことを提案する。そして、単なる仕事場とするのではなく、外部人材と住民が新事業や挑戦を生み、多世代交流が実現することによって、「静けさ」と「活気」が両立する、「まちとつながる・共創の起点」をめざす。
そのためには、住宅支援やリノベローンの提供、観光協会と連携した交流の場の確保、そしてWi-Fiの充実化などの通信環境の整備を、自治体や地域企業、さらに各種団体とも連携していくことが求められる。定住者が地域に根付くには数年のスパンでは難しく、まずは溶け込める環境づくりから開始し、交流の機会を段階的に増やし、そして循環型の人流が10年近い時間をかけて実現することで、「文化回廊都市・長府」の姿が具現化していく。
<Bチーム>テーマ:関門を歩くほど、家族の笑顔とまちの笑顔がふえる かんもん くらし旅パス

下関市は、全国の中でも人口減少が速いペースで進んでいる自治体の一つ。特に若年層の人口減少に伴う、地域の活力低下や産業衰退などが懸念されている。その要因として、子育てサービスが不十分であったり、家族で遊べる施設の少なさ、子供連れでの生活の不便さなど、子育て世帯が不満を抱えているケースが多い。また、同様の問題は下関市だけでなく、関門海峡を挟んで対岸にある、北九州門司区も同様の問題を抱えている。下関市と北九州門司区に住む子育て世帯は、推定約18,500にのぼる。
子育てをしながら、安心して遊び、働き、暮らし続ける街をつくることで、こうした世帯が定着しやすくなるようにしていきたい。そのための施策として、関門地区に住む子育て世代の休日の過ごし方を支援すべく、関門間を行き来することにより、家族連れが充実した休日を過ごせるよう、デジタル周遊パスを提案する。
下関市と北九州門司区は、関門トンネルや関門橋など、双方を行き来できる複数のルートがあり、自家用車での移動が容易なほか、公共交通機関も充実している。こうした関門地区は、豊かな自然や文化、歴史、産業、そして都市がコンパクトに融合する場所であり、十分な魅力を備えている。門司区においても、門司港レトロなどをはじめとした観光資源が充実している。こうしたことから、商業・文化施設や自然・工場見学・学び体験を定額で回遊できるようにすることで、週末の外出習慣化と暮らしの充実を図る。これにより、子育て世帯の生活満足度向上により、定住促進をめざす。また、関門海峡を挟んだ双方の地区を活性化させ、魅力を底上げすることで、関門地区を豊かに、そして愛着の持てる街へと変えていく。
<Cチーム>テーマ:JR下関駅から始まるふぐの都・下関 世界発信プロジェクト

JR下関駅は、下関の玄関口であるが、下関の魅力の一つである「ふぐ」を感じられる場所が少なく、そもそも観光拠点に向かうための通過点になっているという課題がある。また、下関はふぐに限らず、国内有数の水産加工の街であることから、水産加工業の魅力を発信し、その産業の強さをもっとPRしていきたい。
日本の水産加工業は、食品衛生法などをはじめとした、厳格な規定のもと、高い安全性を消費者に届けている。加えて、高度な鮮度保持や繊細な加工技術により、その味や品質についても、同様に高いレベルにある。下関はこれまで、そういった水産加工の信頼性と技術を長年にわたって守り続けてきた歴史がある。
そのため、下関駅を通過点でなく、「学びと産業が生まれる物流拠点」とするため、観光拠点としてフードパークや参加型イベントの定期開催など、下関駅に滞留の流れを生み、下関が有する水産加工業の魅力を発信することはもちろんのこと、その強みを後世に引き継げるよう、若者への水産業に関する教育拠点を地域の教育機関と連携して設けることを提案する。
日立グループ参加者インタビュー
最終発表会終了後、日立グループからの参加者計4名にインタビューを行いました。今回、日立製作所からは3名、日立システムズから1名の参加となりましたが、今回は全員が、前職で金融機関に在籍し、その後日立グループに経験者採用で入社したというメンバーでの編成となりました。金融機関出身という視点で本研修に参加し、発表会という大一番を終え、これまでの準備段階も含めて何を得られたか、それぞれの想いを語って頂きました。
<Bチーム>
日立製作所 中国支社 金融システム営業部
上村 悠真(うえむら ゆうま)

過去2回の研修では、私の前任者が参加していたのですが、いずれも大賞を勝ち取ることができず、その悔しさもあわせて引き継ぎ、3回目となる本研修に臨みました。その結果、私の所属するチームが大賞に選ばれたことは、素直に嬉しく思いますし、無事に完走できたことに安堵もしています。
通常業務と並行して進める中で、定時後の時間を確保し、チームメンバーと議論を重ねることは、大変ではあったのですが、今回のような異なる立場の方々と意見を出し合い、協力しながら企画を組み立てていく経験は非常に貴重だったと感じています。私は前職では地域密着型の金融機関に在籍し、当時は地元企業の方々と相対する機会は多くありましたが、今回はさらにその先にいる、エンドユーザーの抱える課題と直接向き合えたことで、地域課題の本質に目を向けることができたと感じています。昨年の7月からご縁があって日立に経験者採用として入社し、今回の機会を通じて得た気付きは、今後のお客さまへ示していく新しい価値提案に、確かな厚みを加えてくれるはずだと強く感じています。
前日はチーム全員で集まり、最後の読み合わせを行い、全員が納得できる内容に仕上げたうえで、あとは本番で出し切ろうと話し合って、今日を迎えました。やれるだけのことをやって、悔いなく取り組めた結果として今回の結果につながったことは、本当に良かったと思っています。
また、本研修は、下関市の未来を「ムーンショット型*1」として描き出すことを目的としていました。その中で私たちのチームは、下関だけにとどまらず、全国の他地域にも横展開できるプランを検討し、最初のステップとして、海峡を挟んだ対岸に位置する北九州市門司区を具体的な連携先として示しました。こうした明確な連携先を提示できたことが、今回のプランに一層の説得力を持たせる結果につながったのではないかと感じています。
*1: 現状の延長線上にない大きな飛躍的な目標を設定し、それを達成するために困難を恐れず、また既存の枠組みや技術に捉われない挑戦をすること。人類を月に送り込むことに加え、実際に月面着陸を達成したNASAのアポロ計画に由来する。
<Bチーム>
日立製作所 金融ビジネスユニット 金融第二システム事業部 グロース戦略推進センタ
廣田 優里 (ひろた ゆり)

まさか自分の所属するBチームが大賞に選ばれるとは思っていなかったので、結果発表直後は驚きが大きかったのですが、今は嬉しいという実感が湧いてきました。私は、下関市やその周辺地域に土地勘が無かったので、その点は苦労しました。グループワークで地域の方々が抱えている課題を共有していく中で、では他の地域や自治体はどうなのか?という流れで議論を深めていくと、場所は違っても本質の課題は同じであることに気が付きました。本質をきちんと捉えることができれば、横展開は難しくないのではないか、という考えに至ることができ、良い提案に繋げられたのではないかと思っています。
私も金融機関の出身で、当時は商品を開発する部署に所属していました。日立に経験者採用で入社後は事業企画に従事しています。前職では直接お客さまやエンドユーザーの方々と相対する場は無かったのですが、日立に入社してからお客さまとの打ち合わせに参加させていただく中で、課題を間違って捉えてしまうと、最終的な提案も的を射ない結果になってしまうことを学びました。今回の研修チームには、山口県や下関市に知見のあるメンバーが多く所属していたこともあり、そういったメンバーと議論を繰り返す中で、地域が抱える課題に向き合うことの難しさと、それをもとに地に足のついた提案を行うことの大切さに、気付くことができました。
本研修では課題を発掘して、新たな提案をゼロから生み出すことに取り組みましたが、この経験はこれからの業務でも役立てられるのではないかと思っています。
<Fチーム>
日立製作所 金融ビジネスユニット 金融第一システム事業部
青谷 真 (あおたに しん)

今回、限られた時間の中ではありましたが、計画的に本発表まで進めることができたので、その点ではここまでの取り組みに満足しています。本研修のように、それぞれメンバーごとに熱意の方向性であったり、業務で使っている言葉が全く違ったり、そういった中で何か一つのものを、アイディアを持ち寄って議論することは、通常の業務では経験できないことだと思っています。私は普段、システム開発に従事しているので、プロジェクトの中で何かしら目的があって、それを前提にチームを組んで進めていくのですが、今回の取り組みは全くの逆のパターンなのかなと感じました。
そういった意味では、振り返ると最初のゴール設定は苦労の連続でした。最終的に保育園留学という方向性に固まったのですが、そこまでは具体性が乏しいアイディアの繰り返しでしたので、結果としてブレインストーミングに時間がかかったのは大変だった証拠だと思います。もっとも、方向性が見えてくれば、誰が何を受け持つことでそれぞれの専門性や特性を発揮できるかという観点で、役割分担を割り振ることができたので、そこは普段携わっているプロジェクトの経験が生きたのかなと思っています。
あとは、私も8年間にわたって金融機関に勤務してきた経験があるので、地域が抱える課題についても、金融機関のチームメンバーの方々と同じ目線で見ることができたのも、前職の経験が役立ったのかなと思います。
<Aチーム>
日立システムズ 中国支社 営業本部
山中 秀斗(やまなか しゅうと)

本日の発表は、くじ引きで決定され、私の所属するAチームがトップバッターになったのですが、実は私が1番目のくじを引き当てたという裏事情がありました。トップバッターのプレッシャーはあったものの、チームとして良い発表ができたのではないかと思っており、今はただほっとしています。
私のチームは、比較的テーマはすぐに決まった方だと思っています。ただ今回は、10年という長期の事業計画を策定することが命題だったので、自分たちの考えている事業に深み・広がりを持たせるところは、苦労したポイントかなと感じています。
私自身、前職では金融機関において法人営業を経験しており、お客さまが抱える課題を把握したうえで、どのような提案につなげるかを考える経験を積んできました。当時の経験が今回の検討においても生かすことができたと感じています。また、現在、自治体向けの営業に携わっていることから、本研修で得た視点や考え方は、今後の自身の業務にも十分に活用できるのではないかと考えています。
今回のチームは新入社員の方が2名、私含めた経験者採用者が2名となっており、年代や所属会社も異なるメンバー構成でした。それぞれが異なる価値観やバックグラウンドを持つ中で、約7〜8か月にわたり議論を重ね、最終的に具体的な提案としてまとめ上げることができた経験は、私にとって非常に大きな財産になったと感じています。


