株式会社日立製作所は、鉄道事業者向けに、エネルギーマネジメントを支援する「鉄道電力分析サービス」を8月28日より提供開始する。
本サービスでは、鉄道事業者が保有する車両や設備情報、運行や送電実績などの現場データを日立の鉄道システム統合シミュレーター*1で総合的に分析することで、設備・運用面での課題を可視化し、改善策の検証を行う。これにより、鉄道事業者における電力運用を最適化し、環境負荷低減とコスト削減の両立による持続可能な輸送事業の実現に貢献する。
なお、本サービスの提供開始に先立ち、日立は複数の鉄道事業者と電力使用量のピーク抑制や回生失効*2の削減を目的とした分析を行い、その効果を確認した。
*1 鉄道システム統合シミュレーター : 鉄道の輸送力やエネルギーコストなど現地の鉄道事業のニーズに即したシステムを構築するため、車両設備、信号設備、運行管理設備、電力設備など、複数の設備の連携を考慮した大規模な鉄道システムを再現するシミュレーター。2011年9月から提供開始した。https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2011/09/0920.html
*2 回生失効 : 電車が停止する際や減速する際に生み出される回生電力が消費や貯蔵されず、ブレーキの制動力が低下または失われる現象。
背景
近年、鉄道業界では、気候変動への対応が急務な一方、エネルギー価格の高騰などによる輸送コストの増加も課題となっている。鉄道事業者においては、環境負荷を低減しつつ経済的にも持続可能な輸送事業の実現が求められており、鉄道電力に関するオペレーションの改善が不可欠である。
こうした課題を受け、日立は鉄道事業者のエネルギーマネジメントを支援する「鉄道電力分析サービス」を開発した。
なお、本サービスの提供開始に先立ち、日立は複数の鉄道事業者に試行的に本サービスを適用し、効果確認を実施した。具体的には、各車両の消費電力を分析することで、ピーク時における瞬時最大電力*3および全体の消費電力量削減の有効性が確認できた。また、回生失効の発生状況の分析により、回生失効の発生が約70%削減可能という結果となった。
*3 瞬時最大電力 : 瞬間的に必要となる最大の電力量。
本サービスの特長日立グループの役割
- 現場データの総合的な分析による課題の可視化
鉄道事業者における車両や設備の情報、運行実績、送電実績などの現場データを、日立独自の鉄道システム統合シミュレーターで総合的に分析する。これにより、個別の事象からでは発見が困難な潜在的な課題についても、可視化や原因の特定が可能となる。 - 車両の運転記録データに依存せず、網羅的かつ緻密に路線全体の分析が可能
車両から取得できる運転記録データが限られている場合でも、運行ダイヤなどの車両以外から得られる既存の運用実績データを活用することで、鉄道システム統合シミュレーター上で不足データを補完可能である。これにより、鉄道事業者は車両からのデータを収集するための新たな仕組みを導入することなく、路線全体を網羅的かつ緻密に分析できる。 - ワンストップで鉄道電力の最適運用を支援
現状の分析や可視化にとどまらず、車両や信号、運行管理、電力など、鉄道インフラの各分野における日立グループの知見を活用し、分析結果に基づく改善検証から施策導入まで鉄道事業者の課題解決に伴走する。ワンストップで鉄道電力の最適運用を支援し、鉄道事業者の持続可能な輸送事業の実現に貢献する。
今後の展開
日立は今後、本サービスを通じて、鉄道事業者における設備やオペレーションの継続的な改善を支援していく。具体的には、分析環境の高度化、既存システムとの連携による最適な運用計画の立案、および状況に応じたエネルギーのリアルタイム制御など、本サービスの機能の拡充をめざす。
日立は、こうしたデジタルの活用と、IT×OT×プロダクトの融合により、鉄道事業者の持続可能な輸送事業の実現に貢献する。